side 香恋

 朝食を食べると、私たちは教会へ向かった。


 まだ結婚式まで時間があるが、女の子は綺麗になるためには時間がかかるのだ。

 控室になった部屋で化粧をしながら、私は用意したドレスを見る。

 

 私には少しサイズの大きいレンタルドレス


 サファイアのはめ込まれたティアラ

 

 先ほど開封したばっかりの長手袋


 どれも、予算を考えながら、なんとか揃えたものばかりだ。 

 でも、一つだけ用意できなかった。

 それは残念だけど、仕方がない。


 幸博さんとも、100%は無理だけど、できる範囲で頑張ろうと話し合って、お金もできるだけかけず、手作りで式や披露宴をしていこうと話し合ったのだ。

 一つ足りないのも、いずれいい思い出になるはずだ。


 それに、足りないのも幸博さんも市緒だ。

 彼は、今、一番祝ってもらいたい人が来ていないのだ。

 

 それならば、二人とも足りていなくてちょうどいいのかもしれない。 


 私が自分の控えで式の準備をしていると、幸博さんが一人の青年を連れてきた。 

 黒色のパーカーにGパンというごくごく普通の服を着た銀髪の青年だった。

 初めて見る人だった。

 服装からして結婚式の招待客でもないようだった。


 なぜ、このタイミングで幸博さんが彼を私に合わせたのかわからず、私は戸惑ってしまった。



咎:「初めまして、熾火咎といいます」

咎:ニッコリと笑う


香恋;「はい、なんでしょう」


咎:「えっといきなりなんですけど…黒いドレスをきた女性に見覚えとかはないですか…?」

咎:写真を見せる


香恋「え、これ、幸博さんの上司さんでしょ」


咎:「…? その上司さんについて聞いても?」


香恋「一度、幸博さんと一緒に食事をしたこともありますし」


咎:「…ふむふむ」


 私に尋ねてくる青年の目はかなり真剣な感じだった。

 だけど、どうして彼が、古杉さんの事を聞いてきたのだろう。


 私は改めて写真を見る。


 黒いドレスをきた女性は、まちがいなく古杉さんだ。

 

 だけど……

 まるで優しく包み込むかのような微笑みを浮かべて、私たちを祝福してくれた古杉さんはそこにはいない。


 狂気すら覚える必死の形相

 それでいながら怯えているような表情



 それは、まるで捨てられ、行き場所のない猫のように私には見えてしまった。


 彼女に何があったのだろうか?

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