第9話 計画のズレ
入学式の日から早くも3日が経過した。この3日間は健康診断や学校内案内などといった学校生活を送る上で知っておけば便利なことや部活動紹介などといったことばかりで授業もなく、午前中に帰る日が続いていた。だが、そんなゴールデンタイムも昨日までで終わりだ。今日からは授業も始まり学校も6限までである。それでも、明日は土曜日で休みなのは学校側の計らいだろう。
「いやー今日から授業だな。楽しみなような面倒くさいようなだな!」
「俺は授業は嫌いじゃないからな。授業中は人とあまり話さないでいいしな」
「会って数日だけど俺、悠のことよく分かった気がする……」
相変わらず席が後ろの智也とは話すが、俺がこの3日間の間に話したのは智也と彩花だけだ。智也と彩花もクラスに仲のいい人が何人か既にできたようで俺と話す頻度も減ってきている。実にいい感じである。智也と彩花と話をするのは嫌というわけではないのだが、1人で過ごすことも俺にとっては重要なのだ。
「なぁ、悠ってなんでそんな人のことを避けるんだ?」
「別に避けてるわけじゃないぞ? 今だって智也と話してるだろ」
「それはまぁ、そうなんだけど。けど、悠から話しかけてくれたことないだろ?」
「用件がないからな」
「用件がなくたって雑談くらいしたいと思わないのか?」
「全くないと言えば嘘になるけど、誰かから話しかけてもらって軽く雑談をするくらいで俺は満足できる」
本音を言うならそれさえも別になくても構わないのだが、俺に気をかけて話しかけてくれる智也にそれを言うのは気が引ける。
中学時代は俺に話しかけてくる人はいなかったので、俺はずっと本を読んで過ごしていた。高校ではスマホを学校に持っていくことも許されるようになったので1人で過ごす時間もより充実したものとなるだろう。
「なるほどな。なら、安心しろよ! 俺がちゃんと話しかけてやるからな!」
「そりゃ、どうも」
そう言いながら俺の肩をバシバシと智也は叩きながら笑っている。こういう、智也の俺の意見を尊重しながらも明るく接してくれる性格は本当にすごいと思う。大抵の人は『なんだよこいつ』『変なやつ』などと言って話しかけてくることが無くなるのだ。人間ができているなんていうのは智也みたいなやつのことを言うのだろう。そんな事を考えていると始業のチャイムが鳴り先生が入ってくる。
今日の1限目は現代文の授業であった。初回の授業ということもあり、先生の自己紹介や授業の進め方などの説明が大半であって授業らしいことはあまりせずに終了した。それから、数学、英語、古典と授業が続いたがどれも似たような感じで終わった。
4限までの授業が終了すると昼休みであり、友達同士で席をくっつけたりしてお弁当を食べたり、食堂に行ったりしていた。智也も俺に申し訳なさそうにしながらも、このクラスの数人の男子達と弁当を持って食堂へと向かっていった。
「智也も俺にそこまで気を使わなくてもいいのにな……」
もちろん俺は一緒に食べる友達なんかいないので1人で弁当を食べる。ただ、席が1番前ということあって1人で弁当を食べているのは少し目立ってしまう。だがそれも、席替えまでの辛抱ということで俺は視線を気にせずに1人でスマホを触りながら弁当を食べるているとLINEにメッセージが届いた。
俺のLINEには基本的に妹からしかメッセージは来ないので、今日の夕飯のお使いだろうと思ってLINEを開くとメッセージは妹からではなく彩花であった。
『ねぇ、悠くんもこっち来る?』
俺は視線だけを彩花の方へ向けると彩花は俺の方へと小さく手を振ってくる。彩花は女子4人組で机をくっつけてお弁当を食べているようだ。その状況で、こっち来る? っていうのはさすがにきついものがあるので、丁重にお断りさせていただく。
『遠慮しとく』
『だよね笑』
『すまんな』
『いいよ! 断られるのは分かってたしね!笑』
それなら何で聞いたんだよと思いながらスマホの電源を切って本を読もうとすると、彩花から別のメッセージが送られてきた。
『この前に一緒に遊びに行こって言ってくれたけど、いつにする? 私は明日か明後日でも全然大丈夫だよ!』
「……え?」
確かにそんな話もした。彩花が不機嫌そうにしていた時に機嫌を直してもらうためにそんな約束をした。けど、それは智也と3人でお昼ご飯を食べに行ったので終わったものだと俺は思っていたんだが……。どうやら、彩花はあれを遊びに行ったとカウントしていなかったらしい。ここで、前にご飯行っただろ? なんて言おうものなら彩花がまた不機嫌になってしまうのは火を見るより明らかだ。そうなると、俺の返信はもう既にに決まっているようなものだ。
『俺もどっちも空いてる』
『ほんとに!? それなら、明日にしよ!』
『了解』
俺はそれだけ送って今度こそスマホの電源を切って机の横にかけていた鞄から本を取り出す。まさか明日も出掛けることになるとは……。
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