第5話 入学式からの呼び出し
俺達、新入生の全員が体育館に入り席に着いたら拍手の音も次第に聞こえなくなっていった。すると、体育館のステージへと上がる階段の少し横に置かれていたマイクの前に頭頂部が輝かしいことになっているおじ様が立つ。俺の見立てでは間違いなく教頭先生だろう。あの頭だ。間違いあるまい。
「これより、明宝高等学校の入学式を開式いたします。本日、司会を務めます教頭の山田浩です」
そう言って教頭の山田先生は頭を下げる。やはり、あの頭は教頭先生で間違いがなかった。俺の勘もまだまだ捨てたものじゃないようだ。
続いてのプログラムとして、校長先生の挨拶となった。そして、校長先生はそれはそれは素晴らしい頭をしておられた。俺の頭が太陽だと言わんばかりに輝いておられる。これが教頭と校長の差なのか……。
「……………最後になりましたが、新入生の皆様。保護者の皆様ともに明宝高等学校への入学おめでとうございます」
そう言って校長先生は礼をして入学式の挨拶を終えた。時間にして5分程だったのだが、俺は1分を過ぎたくらいで話に飽きてしまったのでずっと校長先生の頭について考えていたのは仕方の無いことだろう。油でも塗ってるんじゃないか? っと本気で考えてしまうくらいには神々しく輝いていたのだから。
それが終わると今度は、新入生代表の人が挨拶をしていた。新入生代表として挨拶をしてくれているのだから新入生である俺はその事に感謝しながら話を聞くのが筋だというのは分かっているのだが……眠い。それでも、入学式で寝るのはいかがなものかと思い、頑張って起きていたらようやく新入生代表の挨拶が終わった。続いて在校生代表として生徒会長が挨拶をしてくれるらしい。
生徒会長と思われる人物が体育館前方にある壇上に上がり、中央に置かれているマイクの所まで歩いていくのだが、どうにも見覚えがあるような気がする。……誰だっけ? 中学校の先輩? 俺は陰キャとしてきちんと帰宅部をしていたので先輩に知り合いがいた記憶はないのだが? そんなことを考えながら挨拶を聞いていると新入生の挨拶とは打って変わって体感的にはすぐに生徒会長の挨拶が終わった。
「…………在校生代表、柏・村・奈・菜・」
「……あっ」
通りで見覚えのあるはずだ。柏村奈菜と言えば、今日久しぶりに再会した彩花の姉であり、俺の初恋の相手でもあるのだから。彩花と同じように奈菜さんも3年前に比べてかなり綺麗になっていた。年上の人に対して美少女と表現するのはあれなので、例えるなら近所の綺麗なお姉さんといった感じである。
それにしても、まさか生徒会長になっていたとは……彩花も教えておいてくれたら良かったのに。そんなふうに思っていると壇上から降りてくる奈菜さんと目が合って微笑まれた気がした。
「さすがに気のせい……だよな?」
「ん? どうかしたのか?」
「いいや、なんもない」
どうやら、声に出てしまっていたようで隣に座っている智也に話しかけられてしまった。
奈菜さんの在校生代表としての挨拶が終わってからは来賓者の紹介と挨拶が行われ、市長などからの祝電が披露されたあと、閉式の挨拶が行われて入学式は終了となった。俺達は再び拍手の中、体育館を出ていき教室へと戻っていく。教室に戻ってきて、各自が自席について担任の教師を待っていると智也が後ろから話しかけてくる。
「今日はもうこれで終わりなんだよな?」
「軽くホームルームして終わりって感じだろうな」
「なぁ、悠。一緒に昼飯でも食べに行かないか? せっかく今日仲良くなったんだしさ」
「……まぁ、いいけど」
「よっしゃ!」
「彩花も呼んでいいか?」
「もちろん! 人数は多い方がいいしな!」
そう言って智也はすぐに了承してくれる。これで俺も彩花と約束している今度遊びに行くというのも同時に消化してしまおうという完璧な作戦である。それから、数分程すると担任の教師が教室に入ってくる。
「入学式はお疲れだったな。今日はあとは、ホームルームを軽くして終わりだから気楽に頑張ってくれ。そんでまぁ、ホームルームで何をするかだが自己紹介をしてもらおうと思う。簡単に名前と趣味だけでいいから出席番号1番から順番にな」
先生の指示で出席番号順に自己紹介が行われていく。それから、生徒全員の自己紹介が終わると最後に先生が自己紹介をする。
「最後に私だが、桜庭由梨さくらばゆりだ。このクラスの担任を務める事になっている。桜庭先生でも由梨ちゃんでも好きなように呼んでくれ。趣味は布教だ。是非オタクになりたいというやつがいるなら先生に相談して欲しい! 必ず力になる! 先生を信じて欲しい!」
やたらと熱の篭った先生の自己紹介を聞いた俺達生徒一同は言うまでもないだろうが完全にドン引きであった。あと、めちゃくちゃどうでもいいのだが桜庭先生は独身らしい。
自己紹介が終わってからは配布物のプリントを数枚配られてからホームルームは終了となった。今日はもうこれ以上何も無いとの事なので解散となり、彩花にも声を掛けて智也と3人で教室を出てお昼ご飯を食べに行こうとしたその時であった。
『新入生の翡翠悠くん。至急、生徒会室に来てください。繰り返します。新入生の翡翠悠くん。至急、生徒会室に来てください』
もしかしなくても俺のことであろうか? 全く呼び出されることに心当たりは無いのだが、呼ばれたからには行くしかないので、智也と彩花には少し待っててもらうことにして俺は生徒会室へと向かうのだった。
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