第2話 陰キャと陽キャ
俺と彩花は同じクラスだったこともあり、一緒に教室まで向かい、教室に入ると入学式にはまだ時間があるにも関わらず既に半数以上の生徒が教室にはいた。これから1年間同じクラスで過ごしていく仲間となるのだが、俺には興味がなかった。高校生活も中学の時と同様に陰キャとして過ごすと決めているので、関わることもほとんど無いからだ。
教室に入ってまず目に入ったのは黒板に貼ってある一枚の紙であった。そこには、クラスメイトの名前と座席の場所が書かれていたが、どうやら出席番号順に席が決まっているようで、必然的に俺と彩花は席がはなれてしまう。
「それじゃ、俺は席に行くから」
「うん! 改めてこれからまたよろしくね!」
「おう」
俺の席は……廊下側の一番の前の席であった。よりによって一番前なのかぁ……。だが、一番廊下側の角の席ということもあり、俺の周りの人は必然と少なくなるので陰キャ的には悪くは無い。ただ、一番前というのは先生との距離感が近いからか、どうしても嫌だと感じてしまうのは仕方あるまい。
「よっ! 俺は福井智也ふくいともやってんだ。席も前後ってことでこれも何かの縁だ。よろしくな」
「あぁ。俺は翡翠悠だ。よろしく」
俺に声を掛けてきたのは、俺の後ろの席となった福井智也という男だ。ここで、陰キャを極めた俺からのアドバイスを1つ。陰キャとして地味な日々を送りたいのなら、ここで変にキョドったりせずに挨拶を交わしておくことだ。ここで変にキョドったりしてしまうと、からかいの対象になりかねない。そうすると、今後の高校生活に支障をきたしてしまうだろう。陰キャと言えど、最低限のコミュニケーション能力は必要なのだ。
「なぁ、一緒に入ってきたあの可愛い子は翡翠の彼女なのか?」
「いいや。ただの幼馴染だ」
「そっかぁ、付き合ってないのか。それにしても、あんな可愛い幼馴染がいるなんて羨ましいぜ」
「そうか」
なるほど。それが聞きたくて声を掛けてきたのか。だったら、もう俺に話しかけてくることはないだろう。そう決めつけた俺は、鞄から一冊の本を取り出して話しかけてくるなということを遠回しにアピールする。ここでも1つアドバイスをしておこう。話しかけるなアピールをする際には、会話がきちんと終わってからにしてからだ。会話の途中であからさまにやってしまうと、感じの悪いやつというイメージが定着してしまい、周りからは望まぬ視線を浴びることになることもあるのだ。
福井は俺達が付き合っていないことが知れて満足したのか、スマートフォンを制服のポケットから取り出して操作し始める。ふむ。我ながら完璧である。これで、俺が読書をしている間は俺に話しかけてくることは無いだろう。そして俺は、休み時間なんかは本を読んでおけばいい。そうすることで、あいつは本ばかり読むやつといった印象となり誰も話しかけてこなくなるのだ。印象が着くだけで、周りから嫌な視線を向けられることも無く俺は気兼ねなく陰キャライフを送ることができるのだ。
「なぁ、翡翠」
「……え?」
「翡翠はインスタとかしてないのか?」
「してないけど……」
何故だ……何故話しかけてくるのだ? 流れは完璧だった。読書を始めた俺に話しかけてくるなど、普通なら気まずくてしてこないはずだぞ? あっ、本読んでる。後にしよ。となるのが自然な流れだろ?
それにインスタだって? そんなもの、俺がしているわけないだろ? 陽キャはインスタを嗜み、陰キャはTwitterを嗜む。これこそが世の中の真理だろ? 入学式の日から自席で本を読むなど誰がどう見ても俺は陰キャであるはずだ。そんな俺がインスタなんてしてるわけが無いだろう。
「そっかぁ。せっかくだし、フォローしておこうと思ったんだけどなぁ」
「そうか。それは悪かったな」
「んじゃ、LINE教えてくれよ」
「まぁ、それなら……」
いくら陰キャであってもLINEくらいは俺でもしている。家族との連絡を取る際にメールだとめんどくさいからな。もちろん、俺のLINEの友達欄には家族しか並んでいない。その中でも連絡を取るのは妹くらいのものだ。もはや俺のLINEは妹専用である。名誉のために言っておくが俺はシスコンなんかでは決してない。決してないからな。
とまぁ、俺の話は置いておくとしてLINEの交換をするべく俺はQRコードを表示して、それを福井が読み取る。
「うし! これで登録完了だ」
「あぁ」
「なぁ、翡翠のこと名前でも呼んでもいいか?」
「別に構わないぞ」
「んじゃ、悠って呼ばせてもらうな。俺の事も智也でいいから」
「了解だ」
このコミュニケーション能力……間違いない。こいつは、クラスのカーストのトップに立つような陽キャだ。くそ……まさか、こんなやつが俺の後ろの席だなんて……入学早々ついてない。俺が陰キャを極めた者だとするなら、智也は陽キャを極めた者なのだろう。陰と陽は決して引かれあうことは無いのだから、智也との付き合いはそれほど長くならないであろうことだけが幸いとでも言うべきか。
「なぁ、悠」
「ん? なんだ?」
「悠の幼馴染って悠のこと好きなのか?」
「……は?」
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