第44話 肩幅ゴーストとの逃走
俺はUターンして肩幅ゴーストから全力疾走で逃げ出す。
屋根から屋根を伝い、足の遅い肩幅ゴーストから順調に距離を取っていく。
「よし…あいつら基本的に遅いから俺の逃げ足にはついていけない…!幼い頃から喧嘩ふっかけて逃げまくってた俺を舐めんな!」
『そんな情けない自慢をしないでくれ…』
肩幅ゴーストはその緩慢な動きで屋根をミシミシ言わせながら駆けてくる。正直、煽れるくらいまでの距離を確保できた。
「勝ったな。風呂食ってくる」
『家に帰ったら風呂、口内にぶち込んでやるよ』
「妹の残り湯もセットでよろしく」
『死ね』
ゴーストひしめく夜中に、こんな兄妹の仲睦まじき会話を終え、俺は再び肩幅ゴーストから逃げる。
その後はナケネを確保して、《オゲロゲロビーム》で終わり。以上!
俺はそんなプランを立てて、呑気に肩幅ゴーストから距離をとっていた。
そんな楽勝な鬼ごっこが数分続いた後…
ゴォォォォォォ…
うん?なんか風が…
突如吹いた風に俺は嫌な予感を覚えて後ろを振り返った…
…ついさっきまでかなり後ろまでいた肩幅ゴーストは俺の目の前まで来ていた…
「いぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
思わず絶叫。腐った肉の顔面と、生ゴミの回収日を逃した翌日の部屋みたいな臭いがさらに恐怖を駆り立てる。
「どどどどどどどどどどどうやってここまで来たんでごわすか!」
思わず口調が変になる。
さらにスピードを上げ、やつから距離を取る。
すると、肩幅ゴーストは屋根に寝そべり、大地を蹴って等速直線運動を始めた。
スーン…スーン…スーン…スーン…
カーリングのストーン並みの摩擦のなさでなめらかにこっちによってくる肩幅ゴースト…
『キモい!ゴーストが等速直線運動してる!ゲームのバグみたいな動きしてる!』
見た目のキモさと、見た目のネタ感に反してその加速力は逃げのプロフェッショナルたる俺を遥かに上回る動き…
逃げろ!あいつに捕まったら肩幅がなんかやばいことになりそうな予感がする!
「ヤベェって!やべぇよ!普通に追いつかれそうなんだけど!」
三角屋根を利用して地面に叩き落としても、物理法則を無視した動きで再び屋根の上に登り、カーリングを始めてきやがる…!
正直、屋根に飛び移る動きでしか、あの肩幅をまけない。
物理攻撃も、即死魔法も効果がないと言うなら、逃げるしかなく、逃げるにしても笑いを取りに来てる回避不可能な動き…
「やっぱり肩幅は警戒しなくちゃいけなかった!」
『あの動きは肩幅ほぼ関係ねぇよ!むしろ空気抵抗受けるだろ!』
このまま屋根を飛び移っていても埒があかない!俺はゴーストがあまり湧いていない地点を探して落下した。
そう、ゴースト共が近づきたくない教会の前…
俺はバケツに教会の聖水を汲んで肩幅ゴーストにぶっかけた!
「おいこの聖水効果ねぇじゃねえか!!不良品じゃねぇか!!」
『ゲロビームと比べんな!聖水は普通のゴーストにも3回くらいかけなきゃ意味ねぇんだよ!』
くそ…この野郎こちとら協力してんだから1発で葬ってくれよ!聖水源ぶち壊してやる!
同じく落下してきた肩幅ゴーストは周りのゴーストお構いなしに滑ってくる。
「ワァァァァ!来やがったぁぁぁぁぁぁぁぁ!雪ぃぃぃぃ!おしっこでもぶっかけてあいつ追い払ってぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
『言っとくけど女子のおしっこが聖水だと思ってんのは1部の変態だけだからなぁぁぁぁぁぁぁぁ!?』
「そうなのっ!?」
『……………………………』
♣︎
とりあえず聖水ぶっかけてちょっと怯んだ隙に、屋根に登って肩幅ゴーストから身を隠す。だが、その策はテンプレみたいな俺のくしゃみであえなく失敗。
次のプラン!雪が全力で殴って吹っ飛ばした隙に俺たちは逃げる!
「オラァァァァッッッッッッッッッッッ!!!!」
打撃によるダメージはなくともゴーストは物理的にパンチは当たる!
肩幅ゴーストは大きく吹っ飛び…
なんて事わなく、殴られた衝撃で回転し始めた。
クソ、失敗!
と、思っていたが…
回転し始めた肩幅ゴーストはそのまま体を支えきれず、屋根から勢いよく滑り落ちた!
「お“ヴェェェェェェェェェ…」
いや汚ねぇな。腐れ肉のゲロなんて、ナケネより近づきたくなくなるわ!
でも、これなら…
『雪!あいつ近づいてきたらもう1回撃ってやろうぜ!』
「ヴェェェ…気持ち悪…殴った瞬間にグニャって…私、あいつはもう殴りたくねぇ…」
ってこんな瞬間までうまくいかねぇのかよ!
「ヴェ…くっさ…」
拳が臭うらしい、雪は口元を覆った。
「ヴェ…オロロロロロロロロ…」
そして、ついに吐いた。
…そんな光景を見て、俺は兄として1言…
『あ、聖水ありがとうございます』
「やかましいわクソボケ兄貴」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます