第32話 脳筋戦士パワーオブパワー
働かなければならぬと決意した雪と、働きたくない俺は、結局雪に体の主導権を奪われてクエストの受注に来ていた。
ちなみに、エイルは用事があるとかなんとかでクエストには行けないそう。
雪は張り紙を剥がして受付嬢の元へと向かっていった。
「脳筋戦士パワーオブパワーの討伐クエストを受注しました!」
笑顔で迎える受付嬢。何か理知的な顔をしているのに、言っていることはとんでも無くバカらしい。
なんだ、脳筋戦士パワーオブパワーとは…
雪が冒険者ギルドの受注欄のこの名を見たときに、この世の真理に辿り着いたみたいな顔をして嬉々として受注した。
「力こそパワー」。日本でも多く親しまれている有名な格言である。
よもやこの世界ではその格言が魔獣となっているとは…
その他にもディフェンスオブDFとかいう量産品が溢れている。
「さて、クエストに行くとしますか!」
雪は相変わらず拳1つでクエストに向かっていった。
クエスト情報によると、パワーオブパワーとは鎧を身に纏った騎士のような外見だそう。
おそらく中身は美少女であろう。(確信)
♣︎
街の門から西に向かって、岩場が密集しているほら穴に俺たちは到着していた。
ダンジョンではない。俺たちのレベルではまだダンジョンには行くことができないらしい。
ここは魔獣の巣窟。報告によると、ここにメスの脳筋戦士が待ち構えているらしい。
メスの!これは鎧を纏っている。ほら穴の奥に生息。女の子。もはや美少女フラグはビンビンに立っている!
元の体だったらそれに呼応するようにあそこを立てて、雪が切断してきそうになっていたことだろう。
『んじゃ、雪ー攻略は任せるわー』
「働けニートが」
そうは言いながらもランタンを持って暗いほら穴に突撃する雪。
『暗いほら穴にひそひそと侵入する兄妹。何も起きないはずがなく…』
「お前を
おかしいなー。そこは普通、1人増えてほら穴から出てくるはずなのに、なんで1人減っているのだろうかね…
さて、気を取り直して…
ほら穴は所々に燭台が設置されており、明るく照らしていた。
『………正直、雪がこのほら穴をぶっ壊して中の魔獣を滅ぼすのがいいと思うの俺だけ?』
「お前は私をなんだと思ってんの?」
…何ってそりゃぁ…
『脳筋鬼畜ひんぬー妹』
「表出ろテメェ!貧乳舐めんじゃねぇ!」
脳筋と鬼畜はいいんだ…
道中には何もなく、安定としてほら穴の1番奥の大部屋に辿り着いた。
そこだけ空間が広がっていて、まるで生活スペースのようになっているところに、ターゲットがいた。
「なんだ。やけに騒がしいな…」
紅の大剣に、紅の大鎧。厨二心をくすぐるまるまるで風のような装飾が施された装備を身に纏う2メートルほどのデカさ《脳筋戦士パワーオブパワー》。
見た目だけなら、かなり興奮できるのだが、悲しいかなパワーオブパワーというやつの名前が脳裏にチラついてどうしてもお笑いにしか見えない。
「女?ハハッ、久しぶりの女だ!」
そう言って高らかに笑う脳筋戦士…あれ?こいつ、メスじゃなかったの?こいつも結局百合なの?明らかにイアを見つめる視線が性的なものに感じて…
「……お前ってメスなんじゃなかったっけ?」
「ん?ああ、前俺の縄張りに入ってきたやつが股下を潜ってきやがったんだけどよ…そのときに、まぁ、ついてなかったんだわ…」
………
ん?何こいつちょっと照れまじりに口走ってくれてんの?
「前入ってきた人間の女をちょっと襲おうとしたよぉ、どこに隠してたのか、ナイフでぶった斬られちまったんだよなぁ…」
つまり、なんだぁ?ギルドもたまたま侵入した一般市民がついてないのを確認したのを鵜呑みにして、メスって付けただけで、こいつオスってことかぁ?
『booooooooooo!boooooooo!』
雪は臨戦態勢。俺は今世紀最大のブーイングを上げた。
だって、そうなるだろ!これだけ美少女フラグを立てて、そもそも大前提が砕かれたんならそりゃそうなるだろ!
「おん?嬢ちゃん。ずいぶん殺意剥き出しじゃねぇか…俺とやるってんのか?」
「ごあいにく、私の身内にもパイプカットされたくせにナンパと求婚を欠かさないはた迷惑なやつがいるんだ…」
へ、へぇ、そんなやつがいるのかーそいつ最低だな(白目)
「そいつとは、なんか仲良くできそうだな…」
こんな出会いでなければ、良い友人に…なれませんね。騙された恨み、未だ忘れない。
「ぶっ殺してやるよ。この脳筋野郎がぁ!」
雪さん、それ完全にブーメランです。
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