第22話 キメラ騒ぎ、終着

 前回のあらすじ


淫交しているキモいキメラを我が妹がぶん殴った。以上!そしてグッジョブ妹!


          ♣︎


『うおおおおおいッ!あいつらめっちゃ寄ってくるんですけど!?』


雪が、あのキモいキメラを殴りつけて数分。


俺たちは、奴らとの鬼ごっこに興じていた。…いや、正確には雪が…


後ろを見れば、もうすんごい形相。浮き出ている犬も狂犬病にでもかかったみたいになっている。


…何をそんなに怒ることがあるのだろうか___


ただ、俺たちは…奴らの営みに横槍を入れただけではないか____あいつらはなんの関係もないけど、ぶん殴っただけではないか____


『いや、それはキレるな』


うん、俺が妹とあーんなことや、そーんなことをしている最中に横槍を入れられたらブチギレた挙句、泣き出すところまでは容易に想像できた。


「急に何言ってんの?」


『今日も妹と結婚したいって』


「キモ」


相変わらず辛辣な妹に、1日の日課を終えて、後ろの犬人間をどうするか思案する。


あいつは、雪の渾身の右ストレートを耐えただけでなく、その後に放たれた蹴り技ですら耐えたのだ。


これをわかりやすいようにすると、俺が150体が死滅するほどの衝撃である。


『ここは逃げるのが先決だな!逃げるなら俺に任せ…うおっ!」


敵前逃亡がこの世に存在する事柄で1番得意な俺は自信を持って雪と変わったが、衝撃で転んでしまった。


『逃げるんなら任せたぞ。あいつは硬いから』


「OK!任せろ!俺は雪の音速拳を逃げ切った男だぜ!」


ああ…俺たち今、めっちゃコンビネーションしてるわ…


戦い専門の雪と、逃げ専門の俺。


そう、俺たちならどんな敵も勝てる!


「《即死魔法バベル》!《即死魔法バベル》!《即死魔法バベル》!《即死魔法バベル》!《即死魔法バベル》!《即死魔法バベル》!《即死魔法バベル》!《即死魔法バベル》!」


以前の熊さんのように、即死魔法は避けられてしまう。だが、一応避ける意思を持ってくれるだけ、時間が稼げる。


犬人間は、陸上選手さながらの綺麗なフォームで迫ってくる。場違いとは思っていても、どうしてもそんな絵面に笑ってしまう俺がいた。


「ニャー………」


俺の腕に抱かれている猫は小さく唸った。


「もしかして…親元が迫っているのか…?」


どうしよう…このまま無視して突っ切ってみようかな…今この猫を手放すと…雪の感触が____


よし、犬野郎を突っ切ってみよう。あんな愛らしいトイプードルなんだ、きっとあの怒り浸透、この世の全てを恨んでいる顔の裏には慈愛に満ち溢れているんだ。


「《即死魔法バベル》」


俺が即死魔法バベルと同時に、犬野郎の体をすり抜けようとした瞬間。


「カッーーーーッ!」


すごい顔で思い切り生首猫が白い玉を吐き出した…


「どうした?毛玉でも吐いたか?」


その玉は、毛玉とはちょっと言い難い速度で飛んでいき、犬人間のスレンダーな肢体に突き刺さった…


……


『「は?」』


通称、毛玉バスター?毛玉ビーム?毛玉ブラスター?は、周囲の地形をゴリゴリ削りながら、その白い光をだんだん収束させていき、やがて消える。


『やったか?』


「多分そのセリフのせいでやってないと思う」


俺は事象の追求を諦め、雪のあからさまなフラグに突っ込む。


当然、削られた土地からは、何事もなかったかのように起き上がった。


「やべえ、すげえキレてる!」


浮かび出てる犬が、この世の全てどころか、全宇宙を憎んでるほどの怒り顔で、のっぺりしたグレイゴーストの目は、鋭く、紅に染まっていた。


さらに、木の茂みから足が遅いのか、クラゲと10体ほどの犬のキメラが馳せ参じた。


これほど見ていて気持ち悪いカップルはいない。これほど見ていて、「リア充爆破しろ!」と思えないカップリングは見たことない。ただ真昼間にそういう営みをされると、夢に出てきそうなのでやめてもらいたい!


「…くそっ」


俺は現れてしまった2つのキメラに、怖気がして、背中を向けて逃亡した____


          ♣︎

『み…見つけた…』


逃げること早数分、俺たちは、まだかろうじて木漏れ日が差し込む、森の中、見事に咲き誇った花畑、いや、生首畑って馬鹿野郎!


雪は感極まった様子でさらっと主導権を奪い、駆け寄った。


…なんせそこには、雪が探していた、生首だけの猫が生息している場所だった…


『くっ…もう、雪のおっぱいを堪能できなくなるんだな…』


流石に、この猫も、親元に帰ってしまうのだろう…動物は、本能には逆らえない生き物なのじゃ…


「達者でな…………」


雪も慈愛の笑みを浮かべてそっと抱いていた猫をそっと下ろ…


「とでもいうと思ったか!こちとら散々迷惑かけられたんじゃい!いなくなって清正するわ!苦しみながら死ねっ!」


と言ってぶん投げた。…我が妹ながら…どこでこんな曲がってしまったのだろう…



「££%×<>※・*〆_______________!」


俺は顔だけは可愛い猫を前に、別れを惜しんでいると、唐突に、あの金切声が聞こえた。


『やっぱり…お前は最後に来るんだよなー』


もう他のキメラは、退治されたのか、それともここまでは来ないだけなのか、この2体以外のキメラと、この猫の群れだけしか遭遇しない。


ただ、こいつがすげえ厄介なのだが…


「スキル…____!」


戦う石を固めた雪がスキルを使用しようとしている最中、生首猫の群れは、その生首から、血のようなものを出して、体を作る。


その、地獄のような光景に、一瞬だけ目を奪われていると____


「「「「「かーーーーーーっ!」」」」」


猫がすごい顔で一斉に白い玉を吐き出した…


          ♣︎


「よし、これで一応生活できる分の金は獲得できたし、あの猫も、親元に帰れたし、万々歳だな!」


「『あのもふもふが…』」


エイルもあの猫を気に入っていたのか、残念そうに声を漏らす。


あの後、どうなったかというと、あの猫の一斉攻撃を受けた後、あのキメラ2体は、森の中へと消えていった。


あれだけの攻撃を前に、2体とも死ぬこともなく、とりあえず、状況を切り抜けて、ほっと息をつき、雪は、猫に手を振って、その場を去った。


その後は、エイルに遭遇して、なんとか、街に戻り、こうして帰る途中である。


『はぁ…』


「落ち込むなよ。今日は、宿に戻ってからケバケバ食おう」


『いらねぇよぉ…』


はぁ、おっぱい…


意気揚々と、雪は宿屋の俺たちの部屋のノブに手をかけ、開く。


…………………………………


「ニャー」


…俺たちは、固まった。


…なぜなら、あの生首猫は、何事もなかったかのように、俺たちの帰りを待っていましたただというように、ベットに佇んでいた。


『ああ…!あの猫がいる!』


「チクショォォォォォォォォォォォ!なんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


俺の歓喜の叫びは、雪の怒号に見事にかき消されたとさ。


めでたし、めでたし。












































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