愛しの妹と異世界で(精神的に)合体したようです!ふざけ倒す兄と、怒りすぎている妹との異世界転生

金鶏

妹と(精神的に)合体した

第1話 ただのプロローグ


春の陽気は実に穏やかで、随分と心地いい。


こんないい日には、睡眠も捗ると言うもので…むにゃむにゃ…


「さっさと起きろや、クソ兄貴ィィィィィィ‼︎」


ベッドで寝転んでいる俺に絶叫と共に、クロスオーバーダイブを決めてくるのは、俺の実妹の鷺堂雪さぎどうゆきである。


「クボァッッ!!」


そして思い切りダイブしてくる妹を避けつつ歓喜の、悲鳴みたいな雄叫びをあげるのは、鷺堂家の誇り高き長男であり、妹の必中必殺の蹴り技を見切れるただ唯一の男、鷺堂悠さぎどうゆうである。


「どうした愛しのマイシスター。もしかしてわざわざベッドに潜り込んできたのは兄である俺と熱い夜を過ごしたかったのか?」


狂犬のように暴れるマイシスターを毛布で包みながら必死に抑えて、カーテンを開ける。


それはそれは、見事な快晴。雲ひとつないほどの澄み切った空に、ヤル気が溢れる。


「お兄ちゃんはお前がしたいと言うのならば大罪を犯す覚悟はとうの昔にできて……」


………思いっきり蹴られた。


「チクショウ。腕を上げやがったな…俺の玉を…毛布越しに当ててくるなんて…ガハッ……」


そう、思い切り蹴られたのである。何をとは言わないが弱点の2つが…


血を吐く演技をして毛布に包まっている妹は、素知らぬ顔で顔を出す。


全く、薄情な妹である。


「馬鹿なこと言ってねぇでとっとと支度しろ」


妹は、セーラー服に身を包んだ状態でさっきのゴタゴタに巻き込まれたせいか、乱れた前髪を整えながら言った。


…艶やかな黒髪に、切長の眉毛にキッとした鋭い目つきが特徴な雪は顔の通り、いやそれ以上にあたりが強い。


この容赦なくぶん殴る、蹴るなどの性格は俺にだけではなく結構誰にでもするのだ。


例えばナンパ男。雪は美少女な分、ナンパが多い。


裏道に誘い込んで色々と期待したナンパ男が2つの意味で撃沈したことは数知れず。


その他にも、ヤンキーやらが大体玉を潰されて、潰された玉の総数はおよそ4の桁まで行っているとかなんとか…


そうしてついたあだ名が『玉潰しの雪』。主に俺とか俺とか俺とかが言っている。


後の特徴としては…身長174という、高校2年生にしては割と高い身長と、Eカップというこれまた高校生にしては発育の良い………


ドガっと、俺が立ち上がった壁に穴が開く。


「なんか、いやらしい目してたから」


「いや違う!ちょっと妹の胸の大きさを測ってただけ………」


俺の真上に拳が飛んでくる。


風圧で髪の毛がハラハラと落ちる。


「…………………………………ごめん」


俺はその場で土下座した。


          ♠︎


「おい、クソ兄貴。なんか面白いこと言え」


「そうだな…最近まで男っ気しかなかった妹が急にオシャレに目覚めて、彼氏ができてないか1日中ストーカーした話でも…」


「ざけんな」


午前7時半、街の通りを歩いていた俺は、こんないつもの微笑ましい雑談に花を咲かせていた。


いつも寂しい通りはこの日は珍しく、俺が道の真ん中を占領できない日だった。


ただたまには道の端に咲き乱れる花々に目を向けるのも良いものだ。


そんなことを思っていると妹は思い切り花を踏み潰した。


「………………まぁ、どうでもいいか……」


「さっきまでの感情どこいった」


こんな心を読まれるツッコミはいつものこと。


交差点に差し掛かった頃、雪は唐突に俺の手を引っ張って信号に連れ込む。


「おいどうして____」


「テメェのせいで毎回遅刻ギリギリなんだ。

あくしろ《早くしろ》」


そう、この妹。意外と優しいことに、俺が公道で「これからも一緒に登校してくれー」、と泣き叫ぶと意外にもOKを出してくれたのだ。


そんなたまに見せる優しさに涙がちょちょぎれる____


俺が感慨に浸って、涙を流して妹を困らせるかどうか思案していた時だ。


ゴォォォ…と轟くエンジン音。


「危____」


俺は妹の体を押しのける。


ドンッ!と揺れるような衝撃に俺と、雪の体が吹き飛ばされた____!


         ♠︎


………そうか、俺たちって死ぬんだ…


体を突き抜ける痛みで、その最後を実感した。


……俺たち、いろんな思い出作ったよな…


俺がゲキマズ料理を振る舞って、噴き出したお前が、怒ったり…


お前の下着にタバスコ塗って、悲鳴上げながら殴りかかってきたり…


生理後のナプキンを回収したら殴られたり…


なんか殴られたり…


お前が怒ったり怒ったり怒ったり…


「来世でも、楽しい世界を…生きような……」


最後に俺は、そう呟いて、もう動かない妹の手を取った。


《鷺堂悠 鷺堂雪 死亡》



































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