第12話 マレトに相談

【葡萄の湯船】を後にしたピンスは街の片隅にあるマレトの屋敷の訪れた。

 扉から呼び出すと、カハが現れる。

「おやピンスくん。朝からいらっしゃるのは珍しいですね。どうぞ、マレトさんを呼んで参ります」

「お願いします」

「いつもの部屋で待っててください」

 カハに促されてピンスは応接間で待機する。

 しばらくするとマレトが現れた。普段は疲れたお姉さんに見える彼女だが今の時間は眠そうなお姉さんだ

「おはようございます」

「おはようございますピンスくん。どうしました?」

 ピンスは早速本題である昨晩の魔獣に関する報告をした。

 ロウソペッカリーが二頭出現したことや一頭が通常よりも大きかったことなど、管理者であるマレトに報告と相談しておくべきだと感じたのだ。

 マレトはしばらくピンスの報告を聞いていて、報告が終わると内容の確認を始める。

「確かにロウソペッカリーが二頭も出てきたら危険ですね。これは今後の対策を自警団と講じる必要がありますね」

 マレトは街の管理者であるが、あくまで管理が仕事なので全ての権限を持っているわけではない。街の安全を守る自警団など、専門的な組織に任せることもある。

 だが、マレトから意見具申があれば流石に他の組織も無視はできないので今日の報告には意味がある。

 今後のことを考えているうちに、マレトはピンスが何か言いたげな顔をしていることに気がついた。

「他に用件はありますか?」

「あります」

「何でしょう?」

 心なしか嬉しそうにするマレト。

 彼女とピンスはこの街に来る前からの関係で、彼女はピンスにとって育ての親でもある。そんな関係だからマレトはピンスにお願いされるのを悪く思わない。むしろ頼られて嬉しく思うほどだった。

「僕が使ってる光線銃が、大型のロウソペッカリーに弾かれてしまいまして」

「報告にあった。魔力の層で障壁を作るタイプですね」

「ええ、それで……マレトさんの使ってた光線銃を参考にして武器を作りたいので、貸してもらいたいというお願いです」

 マレトはキョトンとしていた。

「ピンスくんが言っているのは、この街に来るときに私が見せたやつですよね? アレを貸すだけでいいんですか?」

「アレをもらうわけにはいきませんし」

「いえ、そういうことでは……まあ、実際に見てもらった方が早いですかね。着いてきてください」

 マレトはピンスを連れて移動する。彼女は屋敷の端にある個室へとピンスを案内した。

「ここってマレトさんの研究室ですよね」

「そうですよ。そしてこの部屋の奥にあるのが……」

 マレトは奥の壁にある収納場所を開ける。鍵の付いたケースがいくつも並んでいるその空間はピンスも初めて見た。

「このケース、開けますので中を確かめてください」

 マレトは手前のケースをとって床に置いた。

 ケースは床からマレトの胸くらいまでの長さがある。

 鍵を外して蓋を開けるとケースから出てきたのはルードたちの世界で言うところの小銃に近い形状をしている物体だった。

「これは新しい銃ですか?」

 ピンスたちの世界には小銃なんて存在しないので彼にはそれが本当に銃なのかわからなかった。それでも会話の流れや銃口、引き金などの部品からこれが銃に類するものだというのは察せられる。

「そうですよピンスくん」

「じゃあこれも魔力で発射するんですか?」

 ピンスの疑問は仕方のないことだった。

 この世界では火薬の実用化さえされていない。

 魔力や理力をメインに活用している弊害で他の燃料やエネルギーの生産や実用化が進まない分野があり、その一つが火薬だった。

 火薬を用いた銃も存在するがマレトが試作したものが一つあるだけだ。この世界で銃と言えば魔力で弾を発射する武器だった。

「そうです。ピンスくんが持っている光線銃と同じ仕組みです。もっと言えば、ピンスくんが貸してほしいと言っていた実弾タイプよりも安定します。ですが……」

「ですが?」

「あくまで試作品です。それでも試してみますか?」

「ええ、ぜひ……」

 撃ってみたい反面、ピンスは少し怖くも思っていた。

 マレトに貸して欲しいと言った銃でさえ人間より大きい魔獣の体を吹き飛ばせるのだ。それ以上のものなど扱えるのだろうか。

 そんな彼の心境を知ってか知らずかマレトはいつもの調子でピンスに呼びかける。

「じゃあ、街の外に行きましょう」

 ピンスとマレトはケースごと小銃を背負って街の外へ出た。

 小銃の試射のために二人が向かったのは、周囲を見渡せるほどに開けた平原だ。

「ここなら誤射で人を撃ってしまう心配もないでしょう。あの大きい岩に向かって練習することにします」

「はい」

 マレトはケースを開けると、小銃を取り出して説明を始める。

「この銃は連射を可能にするために、このシリンダーをセットして使います」

 彼女が取り出したのはピンスの人差し指くらいの金属製の筒だった。

「これを銃にセットして、うん? うまく入りませんね……あ、できました」

 何度か金属音を鳴らしながら四本のシリンダーを挿入し終える。しかし、この銃はそれだけでは発射できない。

「暴発や誤射を防止するために安全装置がありますのでそれを外します」

 マレトは丁寧な手つきで安全装置を外す。ここまでの手順を終えるとマレトはゆっくりと構えて岩に狙いをつけた。

「では撃ちますよ」

 マレトが引き金を引くとピンスの光線銃と同じようにガラスが砕けるような音と共に光が放たれる。しかし、その光は光線というほど長くなく、光弾とでも呼ぶようなサイズだ。

 光弾の発射とほとんど同時に、魔力の放出を終えたシリンダーが小銃から排出される。

 マレトは装填していたシリンダー四本分の魔力を連続して撃った。魔力の光弾は岩を穿ってその形状を変えてしまうほどの威力を見せる。撃ち終えたマレトは再び安全装置のロックをかけると、ピンスの方を振り向いた。

「こんな感じの銃です」

「すごいですね。これなら大型の魔獣でも通用しますよ」

「実際に撃って、その銃を気に入ってもらえたらピンスくんに差し上げます」

「いいんですか?」

 ピンスは太っ腹なマレトに喜びの声をあげる。しかしマレトは腰を曲げてキョロキョロと周囲に視線を動かしていた。

「代わりと言っては何ですが、先程排出したシリンダーを探してもらえませんか? アレは再利用できるので使い捨てるのは勿体無くて」

 ピンスが実際に小銃を構えてその重さと威力を確かめるのはシリンダーの捜索を終えた後だった。

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