五章

38話作戦計画

 あれから、一週間が経過した。


 その間の依頼は、都市の中で出来るものに限定した。


 街の清掃から、孤児院の子供たちの世話……。


 平民の方々からの細々とした依頼……。


 だが、これも必要なことだろう。


 魔物と戦ったり、賞金首と戦うだけが冒険者の仕事ではない。


 そういうのが誉れとされがちだが、人々の役に立っている点は同じである。




「ユウマ君、今日もありがとうございます」


「いえ、また何かありましたらお呼びください」


 今日は孤児院にきて、子供たちの相手をしていた。

 一人で来ようかと思ったら、何故かシノブとホムラがついてきたが……。

 まあ、意外と面倒見が良く、結構人気があるみたいなので良かった。


 ただ一つ問題があるとすれば……。


「お姉ちゃんはユウマさんの彼女なの?」


「ち、違いますわっ!」


「そうですよっ! ユウマさんの彼女は私ですもんっ!」


「ちげえよっ!」


「え!? わ、ワタクシはユウマの彼女なのですか!?」


「そっちじゃねえよっ! シノブにいったんだよ!」


「ふふ、楽しい方々ね」


「あっ、騒がしくて申し訳ない」


「いいのよ、楽しくて。あの子達も笑顔だし……たとえ立場が違っても、良い人がいるってことは知っておいて欲しいから」


「院長先生……」


 さすがは貴族の孤児から、平民の孤児、果てはエデン出身の孤児まで面倒を見てきた方だ。

 シノブとホムラの正体にも気づいてるに違いない。


「そういえば、彼女は……?」


「アテラさんは、あれからきてないわ」


「申し訳ない、俺のせいです」


「謝ることはないですよ。何か事情があるんでしょうから」



 孤児院の皆に挨拶をして、2人と共に都市の中を歩く。


「ホムラっ! あれ着ませんか!?」


「あ、あんなの着れませんわっ! 布面積が……あぅぅ……」


「2人でユウマを悩殺ですよっ!」


「おい? そういうのはせめて本人のいない場所で……ん?」


 アロイスが血相を変えてこちらに向かってくる。


「団長! ここにいたかっ!」


「アロイス、どうした?」


「ギルドマスターから呼び出しがかかったぜ!」


「なに? ということは、いよいよか」


 アロイスに礼を言い、そのままギルドに向かう。



 中に入ると秘書の方と、アテナさんが待っていた。

 その側にはイージスもいる。


「ユウマ殿、お待たせしました」


「やれやれ、アタイは寝不足だってのに……」


「いえ、こちらこそお待たせしました。アテネさんもすみません」


「ふふ、相変わらず生真面目な方です。では、アテナさんとユウマ殿はついてきてください」


「じゃあ、みんなは待っててくれ」


「やれやれ、仕方ないね」



 秘書のライラさんについていき、以前来た場所にくる。


「マスター、2人をお連れしました」


「はい、どうぞ」


 中に入ると……叔父上がいた。


「はい?」


「よっ、ユウマ」


「えっと……何で叔父上が?」


「アンタの叔父さんなのかい?」


「まあ、ひとまずは座ってください」


「では、私はお茶を入れてきます」


 俺とアテネさんは、ひとまず2人の対面に座った。


「まずは、アテネさん」


「なんだい?」


「申し訳ありませんでした。調査により、貴女の疑いは晴れました」


「頭を上げておくれよ。ギルドマスターが頭を下げるもんじゃないよ。だが、個人的には悪くない気分だね」


「いえ、こちらが間違っていたのなら謝るのが筋ですから。私の頭一つで、優秀な人材が得られるなら安いものです」


「そういうことかい……抜け目もないと。良いね、ここでしばらく世話になるよ」


「それは良かったです」


「で、叔父上?」


「まあ、待て。俺は関係ないというか……ったく、何で俺がこんな面倒なことを……あの野郎め、国王だがなんだか知らないが……」


 何やらブツブツ言っているが……。


「シグルド殿」


「ちっ、わかってるよ。確かに、俺が出た方が収まりはつく」


「では、説明します。まずは、サウス伯爵の悪事が確定いたしました。とある方が、私達が得た情報を元に調べてくださいました」


「とある方……失礼ですが、信憑性は?」


 伯爵クラスを調べるって……どんな方だ?


「いえ、当然の疑問かと。名前は明かせませんが、確かな情報です」


「そうですか、それならば良いです」


 きっと、俺に知らせて良いレベルじゃないってことだな。


「して、その方と話し合いまして……サウス伯爵を捕らえて良いと」


「なっ!?……なるほど」


 領主権限を持ち、伯爵であるサウスを捕らえると許可をする。

 そんなのを出せるのは1人しかいない——我が国のトップ以外には。


「まあ、そういうわけです。今回は冒険者に被害が多く、発見したのも冒険者ということで、こちら側で解決することを許可して頂きました。ただし、国としてもそれでは面子を保てません。かといって、貴族が率いては反発する冒険者もいるでしょう」


「なるほど、それで叔父上が……」


 叔父上は冒険者からも圧倒的な支持を得ている。

 あの大会を見て、冒険者になった人も多い。


「そういうことだ。めんどくさいが、一応伯爵だしな。断っても良かったが……まあ、たまには暇潰しも良いだろう」


「叔父上が率いることで、冒険者の反発を防ぐ。そして国のしての面子も保つと」


「ええ、その通りです。面倒なことですが、そういう世界ですから」


「だが、俺は基本的には何もしないつもりだ。お前がリーダーとなって、奴を仕留めろ」


「お、俺が?」


「クラスは中堅ですが、発見したのは貴方です。それに、調査を成功させたのも。誰からも文句は出ませんし、させません」


 俺にできるだろうか?

 まだまだ未熟者の俺に……。


「ユウマ」


 顔を上げると、真剣にこちらを見る叔父上がいた。


「お前の目的はなんだ?」


「最悪の場合に備えて……自分だけの力で、エリカを守ること」


「俺に頼らない姿勢は評価する。で、今回はチャンスじゃねえか?」


 叔父上の言う通りだ。

 ここで名を上げることは、この先を考えたら……。


「わかりました。若輩者ですが、精一杯やらせて頂きます」


 「決まりですね。では、ひとまず終わりにいたしましょう」


 俺がリーダーか……。


 どこまでやれるかわからないが……。


 覚悟を決めてやるしかあるまい。

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