第11話ホムラという女性

 俺達は、ひとまず村で一泊することになった。


 美味しい食事も用意してもらい、戦いの疲れを癒す。


「隣、良いかしら?」


「うん?ああ、良いぞ」


「貴方……貴族ですわね?」


「……なぜ、そう思う?」


「立ち振る舞いが違いますわ。高貴なる者の、特有の所作があるわ」


「そうか……貴女もだな?」


「おかしいわ……何故、バレたのかしら?やはり——この高貴なオーラが隠せなかったのですわ!」


「ちげーよ! 言葉遣いや態度に丸出しじゃねーか!」


「な、な、なんですって——!?」


「あっ——つい……悪いな、なんか言いやすくて」


 なんかツッコミどころが満載だし。


「フ、フン! 別に良いですわよ……ただ……」


「ああ、わかっている。お互いに何かしらの事情はあるだろう。これ以上の話や家名のことは聞かないでおこう」


「ええ、そうですわね」


「それにしても……」


「アロイスさんは、おいくつ何ですか?」


「え!? お、俺ですかい? 二十八歳ですが……」


「私と六歳違いですか……」


「は、はぁ……」


 あのアロイスが女性に迫られている。

 付き合ってから初めてことだな。

 もちろん、中身が男前で尊敬に値する男なのは知っている。

 なので、これは嬉しいことだな。


「あら……ですが……」


「ああ、俺もわかっている」


 あの女性……所作を見る限り貴族の娘だろう。


「まあ、珍しいことではありませんもの」


「そうだな。次男や三男、嫁に行きたくない女性なんかには多いな」


 家を継げるのは基本的に長男のみ。

 次男はスペアとして飼い殺され、長男の結婚によりお役御免となる。

 ……この俺のように。

 そうなると軍で昇進するか、冒険者で成り上がるかのどちらになる。

 もしくは、息子のいない貴族家に婿として行くかだな。


「私も……まあ、似たようなものですわ」


「そうか……応援するよ。君は優秀な魔法使いだしね」


「え……?お、応援……?」


「ん? ああ、応援するよ。女性だって自分の好きに生きても良いじゃないか。女性は子供を産む機械じゃない。もちろん、大事なことだけどそれだけが全てではないと思う」


「ず、随分と変わった考えの持ち主ですのね?」


「まあ、そうだろうな。一応、自覚はしてるつもりだ。だが、偽りない俺の気持ちだ」


「……ユウマと申しましたね?」


 何だ?急にモジモジし始めたぞ?


「あ、ああ……」


「ワタクシをホムラと呼ぶ権利を差し上げますわ!」


 何故、そっぽを向きながら言うのだろう?


「は、はぁ……?」


「ほ、ほら!」


「はい?」


「よ、呼びなさい!」


「……ホムラ」


「っ〜!! あぅぅ……今日はこの辺で勘弁してあげますわ〜!!」


 そう言い、ホムラは走り去ってしまう。


「相変わらず……よくわからないやつ」


 食事を終えた後は、早朝に帰るために早めに寝ることにする。




 そして翌朝……。


「村長、お世話になりました」


「いえ! こちらこそ! ユウマさんには回復魔法までかけて頂いて……」


 身体を怪我した方々や、持病の方がいたので、軽くヒールをかけておいたのだ。


「いえ、大した魔力は使っていませんから。それでは、また何かあればご依頼ください」


「はいっ! 貴方様を指名させて頂きますっ!」




 その後、馬上にて……。


「やりますわね……」


 後ろにいるホムラがボソボソと何か言う。

 ……というか、昨日は意識しないようにしてたが……。

 ある部分が当たっているんだよなぁ……いや、紳士としてあるまじき考えだ。


「何か言ったか?」


「ああいうことをしておけば、指名依頼をもらえますわ」


「言っておくが……」


「もちろん、貴方がそういう考えの持ち主でないことはわかっておりますわ」


「なら良い」


「……ユウマ、聞いても良いかしら?」


「答えられることなら」


「貴方は何を目指しておりますの?」


「目指してるか……難しいな」


 まずは、冒険者として名を上げて稼ぎを得ること。

 もしくは戦争に参加して、爵位を与えてもらうこと。

 親父と兄貴が無理矢理にでもエリカを婚約させようとした場合に備えて……。

 最悪、エリカを俺の庇護下におけるように……。


「まだ上手くまとまってはないが……とりあえず、冒険者としてひとかどの人物になることだな」


「ということは……ワタクシと同じですわね! ユウマ!」


「ん?」


「今日から——貴方はワタクシのライバルですわ! どっちが名を挙げるか勝負ですわ!」


「良いだろう、受けて立つ」


 俺はどうやら……面白い女性でもあるホムラのことが気に入ったようだ。



 無事に王都に到着し、ギルドにて報告を済ませる。


 どうやら……あの二人は自首をしたようだ。


 いなくなった馬は二頭は、自分たちが行ったらいなかったと。


 俺達は多めの報酬と、お詫びの言葉をもらい、ギルドを後にする。


「フゥ……とりあえずランクアップはしたな」


「ああ、そうだな。これで団長は八級だ」


「ワタクシと同じですわね……さすがはライバルですわ!」


「え?何があったんだ?」


「いや、ライバル認定されたみたいだ」


「はぁー……まあ、団長はスーパールーキーと言われてるしな」


「……初耳なんだが?」


「まだ噂程度だからな。これから広まるだろうよ」


「な、な、なっ——!? ワタクシより先に……!」


「ほ、ホムラさん! 落ち着いて!」


「み、見てなさい! ユウマ! すぐに追いついてみせますわ〜!」


 ……愉快なやつ。


 だが、嬉しいものだ。


 切磋琢磨できる人がいるということは……。


 よし! 俺も負けないように頑張るとするか!

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