第2話剣聖シグルド

 さて……どうすれば認めてもらえるかだな。


 叔父上の住処に向かいながら思案する。


「剣聖であり、自由人である叔父上が簡単には認めてくれないだろうな」


 俺の叔父上であるシグルドは、この国で1番強い剣士……つまりは、剣聖だ。


 俺が住んでいるデュラン王国は剣の国だ。

 剣が強いことが、一種のステータスになる。

 なので我が国には、初代国王が定めた、剣のみ使用可能な大会がある。


 その大会は三年に一回で、十五歳から参加可能である。

 そこで優勝した者は、剣聖の称号を与えられる。

 そして、初代国王の遺言がある。


 優勝者は、次の大会がある三年後まで衣食住を与えられ、伯爵相当の扱いを受ける。

 だが、次の大会の優勝者との戦いに負ければ剥奪、勝てば防衛となる。

 そして大会を三連覇した者には偉業を称え、永世剣聖の称号と、一代限りだが名誉伯爵を名乗ることを許される。


 ちなみに、建国五百年の間に、それを成し遂げた者は五人しかいない。

 もし三連覇を達成した者が現れた場合にも、遺言が残されている。


 三連覇をした者には命令拒否権が与えられる。

 政治の介入などにより、剣を腐らせないためである。

 それは、たとえ国王であろうとも例外はない。


 そう……シグルド叔父上は、この間三連覇を果たした剣聖なのだ。

 しかも二十八歳という若さで、もちろん最年少記録だ。

 そのために弟子が押し寄せるが、ことごとく断っているようだ。


「さて……俺が甥っ子とはいえ、そう簡単にはいかないだろうな……」




 叔父上の住処に到着すると……。

 ちょうど良いタイミングで、叔父上が出てくるところだった。


「ん?ユウマか……?」


「叔父上、一年ぶりほどですかね?お久しぶりです、お元気そうでなによりですよ」


「大きくなったな!ええ!おい!」


 叔父上は、俺より十センチほど高い百八十五センチ身長と筋肉隆々の肉体の持ち主。

 つまり……背中を叩かれると痛い。


「痛いですよ!」


「なんだよ、つれない奴だ。小さい頃は、叔父上〜叔父上〜ってついてきたのによ」


「いつの話ですか……一応、俺も成人しましたからね」


「なに……?時が経つのは早いもんだな……で、どうした?」


「実は……家を追い出されまして」


「……ランド兄貴とバルスか」


「ええ。十八歳ということと、兄上の結婚が決まったそうなので」


「俺と同じか……何もかもが……兄貴は相変わらずということか」


 叔父上はその剣の才能により、俺の親父から追放された経験を持つ。

 自分の地位が危ないと思った親父の器の小ささに情けなくなる……。


「ええ、なので叔父上の世話になれればと……」


「確かに、お前の追放の原因の一端は俺にもある。タイプこそ違うが、兄貴には俺とお前が重なって見えたのだろうな」


「いえ、それに関しては叔父上は何も悪くはありません。ただ、親父の器が小さかっただけの話です」


「まあ……そうだな。だが、俺は自由と戦いを求めて家を出た面もある。それを含めて剣聖になり、様々なしがらみから逃れることができた。つまり——お前がいると邪魔になる」


 叔父上から剣気がみなぎる……!

 そんなはずはないのに、後ろには鬼が見えるようだ……。


「もちろん、わかっています。叔父上を楽しませれば良いんですね?」


「そういうことだ……ついてこい」




 叔父上についていき、ひと気のない広場に到着する。


「さすがに真剣というわけにはいかないからな……ほらよ」


 刃のない模擬剣を受け取る。

 そして、お互いに構える。


「では……いきます!」


「おうよ!」


 俺のスタイルはスピードと緩急をつける剣技だ。

 対して、叔父上はどっしり構えて、その一撃で何者も粉砕する。

 つまり、完全なるパワータイプだ。


「シッ!」


 足に魔力を込めて、地を這うように駆け出す。

 そして叔父上に迫り、剣を叩きつける。


「むっ!?」


「ビクともしないですか……」


「ふむ……スピードは上々だが、パワーが足りないな」


 やはり、単純な膂力が足りない……ならば魔力で上乗せを。


「いきます……閃光乱舞」


 魔力を剣先に集中し——連続で剣撃を繰り出す。

 右から左、下から上、縦横無尽に……。


「おっ!?」


 最後の一撃を受けた叔父上が……一歩下がった。


「……俺の、今現在最高の技が……」


 それが、たった一歩下がらせるだけとは……さすがだ。

 頂きは遥かに遠い……だからこそ——目指す価値がある!!


「いや……悪くはなかったぞ?俺を下がらせるとはな……ふむ、何回か稽古はつけてやっていたが……これなら……」


 叔父上は空を見上げ……何かを考えている?


「えっと……」


「すまんすまん、つい感傷に浸っちまった……さて、最後だ。一発行くから——死ぬなよ?」


 叔父上から再び剣気がみなぎる……!

 模擬剣とはいえ……当たり所が悪ければ——死ぬかもしれない。


「ええ……!」


「剣聖シグルドがまいる——豪剣斬馬」


 剣を肩にかけつつ、叔父上が迫る……!

 そして——背中から真っ直ぐに剣を振り下ろす!


「ッ——!!グハッ!?」


 威力に耐えきれず——俺が吹き飛ばされる!


「ふむ……受ける瞬間に剣を下げつつ、自分も一歩下がったか……そして、威力を受け流したと……悪くない」


 吹っ飛んだが、何とか立ち上がる。


「ご、合格でいいですかね……?」


「ああ、認める。今日から住んで良い。そして——俺の弟子となれ」


 ……フゥ、何とか認めさせることができたか。


 こうして、俺は強くなるための第一歩を踏み出すのだった。


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