生まれてきてごめんね。
柚子川 明
第1話 居場所を探す
40歳の誕生日を迎えた。だいたいで考えると、人生のハーフバースデーといったところか。
子どもの頃は、誕生日を迎えることが嬉しかった。友だちを呼んでパーティーをしたりもしたが、『ディープレッドは翼の涙』に書いたように、大勢で遊ぶことが苦手だった私は、自分の誕生日パーティーでも友だちと喧嘩をし、『その場にいた私以外の全員vs私』という状況になってしまってお開きになったことがある。
「どうして私はみんなと仲良くできないのだろう」
といつも思うのだが、改善は大人になってもできなかった。
20歳を超えると、少しずつ誕生日を迎えることが嫌になり始めた。
しかしこれは、単純に『歳を取りたくない』という気持ちの現れだ。
自分の旬を知っていて、それがこれから先は衰えていく一方だということに抵抗したい年頃なのだ。
自分を可愛く見せることに必死で、誰かに愛されることに人生をかける。
人生の中で、そんな時期が一度くらいあってもいいと思うけれど、私は男性からのみならず、『人』に愛されたいと願すぎていたため、逆に人に愛されなかったのだろう。
友だちにも愛されたい。
私だけを見てほしい。
私と仲良くしていたのに、違う子と仲良くしている姿を見てしまうと、いたたまれなくなった。
そして自分から友だちを遠ざけてしまっていたのだ。
親にも愛されたい。
私は小学校1年生まで一人っ子だった。
私だけを見ていた両親の目は弟に向くようになり、私は
「おねえちゃんだから平気だよ」
と偽りの平気を表面に貼りつけて笑うようになった。
──本当は、私を見てほしかったのだ。
30歳を超えると、いよいよ歳を取るのが嫌になってきた。
誕生日を祝ってくれる主人は近くにいて、一緒に美味しいご飯を食べることも楽しいのだが、だんだんしおれていく自分を認めざるを得ない状況が少し辛かった。
実家を離れてからは、毎年母からメールが来ていて、時代が流れるとそれはLINEになった。
そして、LINEを使うようになってからは父からもくるようになった。
30代も後半になると、自分を可愛く見せることを諦め始める。
仕事が忙しくて、休みの日にどこかに行くほどの体力が残らなくなってきていた。
こんな私も20代の頃は、どんなに仕事が忙しくて毎日11時間の接客していても、休みの日には遊びに出かけたり、電車に乗ってどこかへ行くという体力があったのだ。
それがなくなり、休みの日は身体を休めることに尽力しなければならないようになった頃、家族の間でちょっとしたいざこざがあった。
私も悪かったけれど、私だけが悪いということではないと、私は今でも思っている。
でもそこでまたもめるのも面倒なので、私が悪かったということにして、家族から距離を置くようになった。
大丈夫。
だって私はおねえちゃんだから。
両親は弟と仲良くやってくれればいいよ。
そう思うようになった。
私は結婚して戸籍から外れているわけだし、言ってしまえばすでに主人の戸籍の中の人間だ。
いつまでも、ストレスを溜めてまで実家に固執する必要はないのだと言い聞かせ、距離を置くようになった。
だいたい、今まで普通よりも仲良しだと思っていた弟との仲が薄っぺらいものだったと気づいたのだから、それでいい。
親というものは孫の顔が見たいのだろうけれど、私には子どもがいないが、その点、弟には子どももいる。
今まで
「子どもなんていらないよね」
と一緒に話していた弟が結婚相手に選んだ人に子どもがいて、それだけならまだしも、自分の子どもも作ったところで、もうすでに実家には私の居場所がなかったのだ。
子どもがいない私が帰省するよりも、子どもを連れて帰省する弟を歓迎するのは当たり前のことだ。
立派な親ってなんだろう。
私はそう強く思うようになった。
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