第114話 オカンと鳥と逆鱗様 ~~終幕後編


「支度は出来たな? 飛ぶよ」


 千早はアイテムボックス持ちな魔術師らに支援物資を持たせ、他の人員らも確保し、アルカディアに向けて出発する。

 現場は猛獣達に荒らされ壊滅状態。

 幸い魔力が復活しているので、自警団や魔術師、司教らも力になれる。さらにはアルカディアの国々は海岸沿いに位置するため、霊獣達の援護も期待出来た。


 幼女は防衛ライン辺りに人々を転移し、炊き出しや治癒などを行わせ、自警団には樹海に向かっての掃討戦を指示する。

 数百人単位の人海戦術。秋津国の十八番だ。

 悲惨な有り様でも民を守ろうとする各国騎士団に加勢し、あふれた獣らを、瞬く間に殲滅していく。


 人海戦術ってホントに素敵だわぁ、人材育成しない他の国々って何考えてるんだろ。勿体ないなも。


 幼女は各国へ派遣する代表を集め打ち合わせる。


「タランテーラの王様からもらった紹介状だ。今回のあらましと、復活した魔術やら精霊やらの説明が入ってるらしい。これを持って、各班、担当する国へ向かってくれ」


 大きく頷く自警団に封筒を渡しながら、千早は念のためにと神域結界を封じた魔石も渡した。


「万一、命の危険を感じたら使え。ここは古代のしきたりが生きている土地だ。王族、貴族、選民どもは油断ならん。魔術の理や精霊の力を独占しようとかして、おまえらを口封じするかも知れん。気を付けてな」


 常に先手を打ち続ける幼女は、常時最悪に備える。


 この時、共にいた千歳は、心配性だなぁとか軽く苦笑いしたが、後にタランテーラで、貴族らが魔術を秘匿にしよう的な発言をするのを聞き、思わず生温い眼差しで見つめてしまった。


 皇さん、貴女が正しかった。


 千歳の脳裏には、にかっと笑って親指を立てるオカンがいた。




「んで、どうするよ、こいつら」


 幼女と逆鱗様の前には氷河の一族。


 アザラシの被り物とスワロフスキーのように輝く瞳。彼等は虹の庭園を管理するために生み出された一族らしい。

 何でも、長く生きたアザラシが脱皮して氷河の一族が生まれるとか。数十年に一人くらいしか生まれないので、三百年ほどの寿命を持つと言う。


 その被り物、自前かよ。脱皮なんて獣人みたいだな。


 幼女は胸元に飾っている白いモフモフを無意識に撫でた。


「もう仲間は生まれないよーデス。精霊王の力があったから生まれてたデス。ワタシ達、最後の一族デスよーデス」


「そうなんか?」


 氷河の一族の言葉に、幼女は逆鱗様を見る。


『だの。ある意味、こやつらは肉体を持つ精霊のような物だ』


 なるほど。氷の精霊ってとこか。


 精霊王もいない氷河に残しても可哀想だ。


「じゃ、おまえらも秋津国に住むか? 精霊も沢山いるし、歓迎するよ」


 ほぼ喜怒哀楽のないポーカーフェイスな子供らが、歓喜を瞳に宿す。無表情なのに喜んでいると分かる謎。


「ありがとうデスよー。ワタシ達も働くデス。海と氷なら得意デスよー」


 一斉に踊り出す氷河の一族。その動きは緩やかな阿波おどりのような動きで、各々一貫性はない。

 見事にバラバラなそれを見て、苦笑するオカンに逆鱗様の呟きが聞こえた。


『喜んどる』


「見りゃ分かるww」


 そういや夏祭りな予定だったな。広場に櫓建てて盆踊りも悪くないな。......もう何も起きるなや、頼むから。


 オカンは窓を開けて空を見上げる。


 日射しも本格化し、夏も盛りな異世界に蝉はおらず、少しがっかりなオカンだった。

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