君との恋の物語-Obverse-

日月香葉

君の名は?

『待ち合わせどうする?』

電話越しに聞こえてきた意外な言葉にちょっと戸惑う。

「え?」

答えられたのはこれだけ。ちょっと恥ずかしいくらい動揺してる。

『だから、待ち合わせ。映画、行くんでしょう??』

本当に行ってくれる??‥たまにからかわれるから、あんまり期待しないでおこう。でも一応聞き返す。

「‥本当に行ってくれるの‥?」

『うん。だから待ち合わせ場所決めようよ!』

ここまでの会話だと、とても意地悪を言いそうな感じに思えないかもしれないけど、今電話をしている相手は待ち合わせ場所まで決めておいて最後に『嘘だよーいかないよー』とか言い出しかねない意地悪な人です。はい。

「っていうか待ち合わせするの‥?部活終わったらそのまま行くとかは‥?」

電話越しにちょっと溜息みたいな気配を感じる。え?溜息??

『相変わらずだなぁ。デートなんだから部活終わりなんかで行かないよ。せっかくの非日常なんだから大事にしようよ。』

デ、デデデート!?そんな風に思ってくれてたのか。嬉しくて舞い上がりそうになる!けど忘れてはいけない‥この人は意地悪な

『大丈夫だよ。今回は嘘だよーとか言わないから。』

「‥」

君は超能力でもあるのかしら‥?

『君の名は、でしょ?10時20分からの回があるからそれでいい?』

「え‥?う、うん」

『ちょっとー、ちゃんと聞いてた??」

「き、聞いてたよ」

いや、嘘です。嬉し過ぎてほとんど聞いてなかった。

『じゃ9時半にハーベストのメリゴーランド前ね!」

「うん、わかった‥」

なんか話がトントン拍子過ぎて頭がついていかない‥

「あの‥今更だけど、君は本当にいいの?」

『ん?なにが?』

いや、だからさ

「映画、私と行ってくれるの??」

『ぎりっちょさーん。行きたくないならわざわざ時間調べて待ち合わせなんて決めないでしょー??』

ぎりっちょって。あ、これは私のこと。下の名前がさぎりなので。ちょっと変わってますけど本名です。はい。

「そうだけど‥君は最後の最後に嘘だよーとかいうじゃん!」

『言うけどさ、決まった約束をすっぽかしたことはないっしょ??』

そう‥そこがちょっとかっこいいと思っているところです。

「まぁ、そうだけど‥」

『今、決めたじゃん?場所と時間。』

「うん。」

『だから行くよ。必ず。』

なんか会話だけ聞いてると七夕みたいに壮大な待ち合わせに思えてくる。君のそういうとこ、ずるいな。

「わかった。じゃ、約束ね!」

『OK。よろしくね、さぎり。ではまた明日ー』

ちょっと!今なんて‥??

『‥』

さりげなく名前呼んでいきなり切るとか‥君って本当にずるい‥‥

君は私の気持ちに気づいてる??気付いてるんだろうなぁ‥頭いいもんなぁ‥。あの頭の良さっていうか、発想はちょっと同世代の子達とは違うというか‥

だから私は不安になる‥私が君に感じる魅力を、他の人も感じているんじゃないかって。

今日みたいに電話する相手が、他にもいるのかなって‥?同級生だし、そんなに沢山知り合いはいないと思うけど‥。でも、なんていうか、いつでも近くにいるのに、遠く感じる。

君はそんな、謎の多い人。








ハーベスト前。待ち合わせの10分前に着くように来たら、既にそこには君がいた。

『おう、おはよう。』

「おはよう!」

なんかこう、ちょっと拍子抜け。デートって大体男が遅れてきて、ごめーんまった?的な展開を予想してたから。いや、小説の読みすぎか。

『楽しみだな。君の名は?ってちょっとリアルに言ってみたいセリフだよね』

「うん、言ってみたいけど、言われてみたいセリフでもあるね。なんか、ロマンチック」

なんて他愛もない会話をしながら映画館へ向かう。なんかいいな、この平和な感じ。2人っきりっていいな。



『ぎりっちょさ、ポップコーンは塩?キャラメル?』

「うーん、塩かな。あ、飲み物は炭酸じゃないやつね!」

とかちょっと思い切ったことを言ってみた。えー?とかは?とか返ってくるかと思いきや。

『あー、わかってるって。』

ん?なんか優しい。君は、本当にあの君ですか‥??


席はなかなかいい場所取れました。

ちょっと後ろ寄りの真ん中。スクリーンに向かって左側が私。右側に君。

ものすっごくいい話だった。なんか、ロマンチックで切なくて‥詳しくは、劇場でご覧ください!!笑

実は、映画の内容なんて半分くらいしか入ってこなかった。だって、隣に君がいるから‥。いつも皆がいるところにいる君が、今日は一人で隣にいるから。デートっていうか、二人で出掛けたのはこれが初めてじゃないのに、なんか今日はちょっと違ったかも。すっごく嬉しくて幸せで、でもなんかちょっと、切なかった。映画がそういう話だからかもしれないけど。

ねぇ、君はいつもの、そのちょっと何考えてるかわからない表情で、今何を考えてるの?

『ねぇ』

急に声を掛けられて我に帰る。

「えっ?なに?」

『君の名は!』

「え?」

『君の名は??』

「‥さぁ、なんでしょうか??」

『おいおいおいおいー!普通に答えちゃうんかい!せっかく映画っぽいトーンで言ってるのに!』

「あぁ、ごめん。」

そんなこと考えてたんかい。

『映画だと同時だけど、まぁそれは無理として、君の名は!って言ったら同じようなトーンで返そうぜ!雰囲気大事!!』

って楽しそうだな‥。

「わ、わかったよ」

『よし。‥君の名は!』

「君の名は!」

超絶恥ずかしいんですけど。

『いいね!最高!!やればできるじゃんぎりっちょ!!』

だからぎりっちょって。

『今日はこの後も何回か言うんでよろしく!!』

すごいな君。人前でよくこんなこと何度も言おうとするよね。


それからマックでお昼を食べて、ゲーセン行って、ちょっと買い物して、スタバでお茶して。なんか普通のデートしました。

いいなぁ、始めはあんなに緊張してたのに、君といると、安らぐっていうか‥素でいられるっていうか‥。トキメキ成分より安らぎ成分の方が多い人。でもトキメキ成分もちゃんと入ってますみたいな‥CMか。


今は、どこに向かってるんだろ。なんとなくついてきてる。

『よし、着いた。戻ってきたね!』

あー、メリゴーランド。

「え?なに?ここ目指してたの?」

『そう。スタートとゴールは同じ場所がいいんだよ。』

「そうなんだ‥」

そうか、デートももう終わりなのか‥。

『夢の国の出入り口って一ヶ所しかないだろ?あれは、全ての人に同じところからスタートしてもらって、同じところにゴールしてもらうためなんだよ。夢の始まりと、終わりね。』

「そうなんだ‥」

相変わらず色々なこと知ってるんだな‥。でも、このデートは夢だったの?なんでそんな切ないこと言うんだろ。私はもっと君と一緒にいたい。夢で終わらせたくないのに‥。

『乗ろうよ。』

「え?」

『メリーゴーランド!』

「いいけど‥」

なんで今?

『よっしゃ!』

って先に並んでるし。ひょっとして、この切ない感じを察して元気付けてくれたとか‥?それはないか。


『俺が馬に乗って、さぎりが馬車に乗るのと、二人とも並んで馬に乗るのどっちがいい?』

「うーん、並んで馬‥かな」

あれ?今さぎりって

『並べるのか、さぎりと。いいね。』

え?なに?

って聞こうとしたら、入り口が開いて誘導が始まる。なんとなく聞きそびれてしまった。

メリーゴーランドなんて、本当に久しぶりだったけど、君と一緒に乗ってるのは結構幸せだった。

小さい頃、それこそメリーゴーランドに乗るような年齢だった頃は、君のこと。なにも知らなかったのに、今の年齢になって、一緒にメリーゴーランドに乗るって、なんかお互いの過去を答え合わせしているみたいな感覚になった。今、一緒に乗ってるのは君なんだけど、乗りながら小さい頃にメリーゴーランドに乗ってたことを思い出してる。不思議な感覚だった。


『さぎりは、何時にここを出たらいい?』

「うーん、6時くらい?」

『後1時間ちょっとね、OK。こっちきて!』

どこに行くの?私、聞きたいことが‥

『さぎりはさ、夢って好き?夢から覚めるの、夢ね。』

なにを言い出すかと思ったら‥

「うーん、あんまり好きじゃないかも。覚めたら切ないから。」

『だよね。俺もそう。今日は夢みたいに楽しかったな。』

え?君も?私も楽しかった。でも、やっぱり夢なんだ‥って思ったら本当に泣きたくなってきた。

『着いたよ。』

「え?」

『ここ。もうすぐ夕日が見られる。結構綺麗なんだよ。』

そこは、電気屋さんの上にある大きな駐車場。

沈みかけていく夕日が見えて、確かに綺麗。

『さぎり』

「ん?」

『今日は、夢か??』

「どういう意味?」

『んー、また誘ってもいいかってこと』

誘ったのは私ですけど

「うん、いいよ。」

『そうか。よかった。』

しばらく沈黙。なんか、切ない。


『あの』「ねえ」

同時‥

『君の名は!』「君の名は!」

爆笑。すごい、笑うって幸せ。なんか、今日が夢でもいいかもって思った。そりゃ、ずっと一緒にいられたら幸せだけど、また夢を見られるなら‥。

『ねえ』

「ん?」

『俺は、今日を夢にしたくない。』

「え、うん、だから、また誘ってくれるんでしょ?」

『うん。でもそうじゃなくて』

「どういうこと‥?」

なんか、息が詰まる‥。君のそんなに真剣な顔、初めて見る。

『こういう日を日常にしたいんだ。つまり‥』

え?ちょっと待っ

『さぎりが好きだ。ずっと一緒にいてほしい。』

嘘‥こんなことって

「それ‥本当‥?いつもみたいに嘘だよなんて‥」それ以上は言えなくなった。君があまりに真っ直ぐに私を見るから。

「私も‥」

『ん?』

「私も好きです。君が」

君が目を見開く。

『本当‥か?』

照れてるの?ちょっとからかっちゃおっかな。

「私は君みたいに嘘だよーなんて言いませんー!」

『そうか‥よかった』

君の目に涙が浮かんでる‥え?泣きそうなの?

『たまに電話したり、出掛けたりしてたけど、本当は不安だった。俺みたいな相手が他にもいるかもって』

それ‥私と同じ。

『もっと早くに言いたかったけど、怖かった。今日のデートも、ちょっと強引に決めちゃったし。あの強引さは‥ちょっとした照れ隠しだ。』

なんか‥可愛いな君。

『言えてよかった。メリーゴーランドに乗るとき、寂しそうな顔してたから、守りたいと思った。告白を決めたのは、実はあの時だ。』

意外と行き当たりばったりなのね。でもいいな。こうやって、少しずつお互いのことがわかっていくのね。

『彼氏ができる前に、言えてよかった。好きだ』

って言った君の目から、一滴の涙。そんなに好きでいてくれたんだ。ありがとう。

私は、たまらず君を抱きしめた。少し背の高い君の首に思い切って腕を伸ばして、頭を抱き抱えるみたいにして。君のたくましい腕が、私の背中に回って、力強く抱きしめてくれた。

『夢じゃない』

「うん。夢じゃない」

本当の安らぎ。これが、日常になっていくのね。

「好きな人の名は?」

『‥さぎり』

「大好きよ」

『俺もだ。心から、今日誘ってよかったと思ってる』

だから‥

「誘ったのは私」







その後、二人がどうなったかって?

それはまた別のお話。

ここからは皆さんの想像にお任せします。

私が、ここまでのお話を皆さんに語ったのは、このお話が恋の導入部分だからです。恋の導入って不思議なもので、本人達(私達)はお互いのことしか見えてませんが、実は私達の恋がどのような展開になるかは、色々な人が見ています。恋の話は私達のような世代(高校生)は皆興味を持っていますからね。

◎部のあいつと×部のこいつがいい感じらしいとか、何組のあいつと何組のこいつが別れたらしいとか。皆さんにも覚えがあるかと思います。


では、何故恋の導入部分だから語ったかと言うと、それは、周りの人達は結果どうなったかを知らないからです。

つまり、このお話は、「紆余曲折ありましたが、ちゃんと告白してもらって、お付き合いを始めました。」という報告です。笑


え?その後が気になる?

それは気が向いたらお話します。だって、付き合い始めた以上、ここからのお話は「日常」、つまり「プライベート」ですからね!日記を公開するような物ですよ。

惚気話を書いても、きっと誰も読んでくれないでしょう?

だから、それは、私達のことが一つの物語になった時にお話します。

もしかしたら、それは1年後かもしれないし、私達が死ぬ時かもしれない。それでもよろしければいつか書きますね!


さて、そろそろバトンタッチかな‥??

私にとっての「君」は「彼氏」になりました。

これから恋が始まりそうなそこのあなた!!

あなたにとっての「君」の名は?




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