第12話:カエデの所感
「すみませんでした!!」
フィリが土下座する勢いで頭をカエデに下げるが、カエデは少し涙目になりながらも、壁に刺さった刃を抜いた。
「いや、お前も悪くないよ。いやあ……しかしまさか私の剣が折られるとはね……本気を出してないとはいえ」
「いやいや……めっちゃ本気の一撃だったじゃないですか……。〝あ、やべ〟って言ったの聞こえたっすよ」
呆れた声を出すダラスをカエデが睨み付けた。
「うるせえ。しかし……」
カエデは、目の前で何度も頭を下げるフィリを見て、頭を掻いた。
確かにダラスの言う通り、うっかり本気を出してしまったが……まさかそれを防がれた上に剣を折られるとは思ってもみなかった。
そもそもあの一撃を短剣で受けただけでも、並大抵ではない目の良さと反応速度……そして何より度胸がないと無理だ。それをFランクの新人に出来るとは思えないが、事実、この目の前の少年は、自分の猛攻を一度も倒れる事なく防ぎ、そして最後には武器破壊までしてのけた。
これが実戦であれば……という想定はあまり意味はないのだが、実戦であれば負ける事はないにせよ、撤退を余儀なくされていた。それは、ほぼ彼の勝利と同義だろう。
「フィリ。まだまだ身体も出来てないし、そもそも攻撃しようという気概が欠片もないのが気に食わないが……その目の良さ、反応反射速度、何より根性と気合いと度胸。それに関してはその辺りの剣士よりもお前は才能がある」
「え? 本当ですか」
まさか褒められるとは思っていなかったフィリがキョトンとした表情を浮かべ、その横に寝そべっていたレギナは、何を今さらとばかりにあくびをしていた。
「ダラス、お前も見てただろ」
「……はい。正直言えば、動きも素人臭えし、全然なっちゃいないが……見切りの才能はあるんじゃねえかな」
「ほんとですか! 僕、強くなれますか!?」
フィリが目を輝かせて、カエデとダラスに迫る。
「努力次第だがな。良いか、剣士にとって必要な才能や要素は色々あるが……天才と呼ばれる類いの奴らは皆、先天的に優れている者がほとんだ。フィリ、お前の場合はその目だな」
「目?」
「ああ。お前、私の剣筋が見えていただろ?」
「なんとなくですが……あ、でも見えると言っても感覚的な感じで……」
「だろうな。でないと、私の攻撃をあれだけの時間受けきるのは不可能だ。良いか、フィリ。身体や技術は鍛錬で鍛えられるが……相手の攻撃を見切る目や、それに対して身体を動かす反応反射速度ってのは伸び代があんまりないんだ。だからどんなに鍛錬を行い鍛え上げたところで、それらがなければ、二流で終わってしまう」
そう言って、カエデがイジワルそうにダラスを見つめた。
「僕に一流の剣士になる素質があるってことですか?」
「その通り! あとは身体と技術を鍛えていけば、いずれは一流になれる。それにその武器とお前の性分からして……受けに回るのが最適かもな」
「受け?」
フィリが首を傾げた。
「防御型、カウンター型、と言ってもいい。要するに相手に先に攻撃させて隙を作り、攻撃を加える。実力差があっても勝ちやすいし、相手の挙動にも冷静に対処できる。目と反応反射速度があるお前にはぴったりだ。ちっとその武器見せてくれ」
フィリが頷くと、【フォックスイーター】をカエデへと差し出した。
「遠目に見て、まさかと思ったが……こいつはまた珍品中の珍品だな」
カエデがその二本の短剣を見て、思わずそう呟いた。
そして心の中で、密かにこう思ったのだった。
もしこれが想像通りのものであるのなら……この少年、化けるぞ――と。
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