魔剣使いの元少年兵は、元敵幹部のお姉さんと一緒に生きたい
支倉文度@【魔剣使いの元少年兵書籍化&コ
第1話 勇者パーティーにとって俺はただの殺戮者だった
彼は少年兵として5才の頃から武器を持たされた天涯孤独の身。
その戦いぶりは凄まじく12になるまでに少年兵として挙げた戦果から『
それが彼を表す
彼は唯一少年兵の中で魔剣適正のある存在で、剣術だけなら大人顔負けの才能である。
文字通り戦場に破壊と嵐を。
セトはそれしか出来なかった。
大人の兵に「突撃!」と言われれば突撃し、「
セトはそれしか出来なかった。
戦場における雑用事は大抵少年兵の役目なのだが、セトは戦う以外にはあまりにも不器用過ぎた。
本来ならその時点で大人達に虐げられるのだが、魔剣適正があるということで、ある程度特別に扱われ、彼は武器の手入れを任される。
そう、セトにとっての『人との関わり』とは大抵戦場と大人の兵士達だけだった。
彼は気丈に振る舞い年相応の表情を見せながらも、戦場にて大人達と他の少年兵達との間で生き抜き続けた。
────セトはそれしか出来なかったのだ。
ある日、彼のいる王国で彼は勇者達のパーティーメンバーに
最近になって魔物の動きが活発になり、人々を脅かしていた。
セトの戦闘能力に目を付けた歳若い勇者からの抜擢だ。
国王も勇者の言葉に異論はなく、喜んで彼を同行させた。
────だがセトは旅の途中、突如としてメンバーから外されてしまう。
「セト、君をこのパーティーに入れたのが間違いだった」
「それは、なぜ? 確かに雑務とか俺は出来ないけどさ……それでも戦闘では役に立ってるつもりだ!」
ある朝の湖の
他のパーティーメンバーが準備を進める中、勇者に連れられ2人で話すこととなった。
そのときに言われた失望の言葉。
道も半ばで、これまで様々な敵を倒し、もう魔王の領地も近くなってきた頃だった。
「君は戦闘能力は高い。正直それには驚いている。だが君には戦いしかない。殺すことしかない。他のことはてんでダメ。人間としての尊厳や協調性が欠如しているとしか思えない」
「……魔王を殺す為にいくんだろう? 戦う以外になにがあるの?」
「確かにそうだ。でも君は炊事も荷物持ちも出来ない。今の君は……人も魔物も関係なく襲うただの殺戮者だ!」
「俺が不器用なせいで雑務がロクにこなせていないのは悪いと思ってる。でも戦いは殺戮だろう? 相手は自分達を殺しに来てる……だったら殺さなきゃこっちが殺される!」
旅の途中で出会う敵は魔物ばかりとは限らない。
ときには人間もいる。
野盗や敵国という様々な理由や任務を持った人間が勇者パーティーに襲い掛かる中、彼等はセトの残虐性に思わず息をのんだ。
彼は顔色一つ変えずに、手に持った魔剣で斬り殺していった。
命乞いをする者にも、怯えて逃げ出す者にも
相手が勢いのあまり肉塊になってしまうことも多々見られた。
そのあまりにも
「これは人類を救う為の旅なんだ。殺戮じゃない!」
「なにが違うんだ!?」
「……もういい。君がこんな残虐な人間だとは思わなかった。今日限りで君をパーティーメンバーから外す」
「待ってよ! ここからどうやって帰れば……ッ!」
「自分で考えればいい。たまには人に頼らず自分で考えて動いてみなよ。……もっとも、君の場合は殺すしか能がなさそうだから野盗にでもなりそうだけどね。……もしもそうなったら僕等は全力で君を潰すッ!」
睨みきかせて足早に去っていく。
セトは呆然としたままその場に立っているしかなかった。
時間だけが過ぎていき、もうじき昼となった頃、セトはようやく動いた。
トボトボと右も左もわからぬ土地を
「腹減った……どうしよ、朝飯食ってねぇ」
そうだ、森に入ろう。
森は食べ物の宝庫だ。
しかし調理法など焼くくらいしか出来ない。
だが腹の足しにはなるだろう。
サバイバルは数えるほどしか経験がないが、兎に角実践しなければこちらが餓え死ぬ。
そう思い森の中へ。
ひんやりとした空気がセトの頬を撫でて、注意を払いながら低い姿勢を保ち歩く彼の四肢をより緊張させた。
「鳥の声と草木が風に揺れる音……あと、なにか聞こえるな。動物か、それほど大きくは……ない?」
そう思い太ももに装着してあるナイフを抜き取り、逆手で構える。
案の定近くの茂みから音が聞こえた。
だが現れたのは思わぬ存在だった。
「あ、アンタは……ッ!!」
それは魔王軍で最初に戦った幹部『サティス』。
肩までかかるピンク色の髪を後ろに束ね、可愛げのある眼鏡をかけたスラリと背の高い女魔人。
20代くらいの人間のような姿で、扇情的なレオタード風のコンバットスーツを着こなし、その開いた胸元からは女としての自信と艶美さに満ちている。
ハニートラップは勿論魔術に謀略お手の物。
何度も戦い退けたがそれでも向かってくる彼女の
だが、今の彼女にはそんな面影もなかった。
スーツは至る所にボロが出て破けている。
これは殴られたり蹴られたりして出来るような跡だ。
あの宝玉のように美しい白い肌は血や泥で汚れ、所々に
かけている眼鏡は割れて、あれだけ明るかった彼女の表情は無機物のように暗い。
まとめていた髪の毛も今はだらしなく肩まで下がっている。
あれだけ他人を見下していた目は光がなく、あれだけ小汚い軽口を放っていた唇はやや開いた状態で髪の毛を引っ掻けていた。
「サティス!」
なにかの罠かと思いセトは魔剣を空間から召喚。
左手にナイフを持ち換えての双剣術。
ジリジリと間合いを取りながら彼女を睨むが、一向になにもしてこない。
光の消えた瞳でずっとセトを見つめながら佇んでいる。
「……?」
いつもの人を小馬鹿にしたような軽口はなく、果ては魔術による攻撃すら仕掛けてこないサティスに、セトは怪訝な表情を浮かべるばかり。
「なぁアンタ……」
「……」
語り掛けても返事はない。
ただこちらを力なく見つめてくる彼女に戸惑いの色を見せる。
そしてついにサティスはその場で前のめりに倒れ込んだ。
「お、おい!!」
倒れたままぐったりとするサティスに注意深く近寄る。
彼女は気を失っていた。
元勇者パーティーのメンバーにして魔剣使いの少年兵セト。
そして、魔王軍の女幹部サティス。
この森で彼等は運命とも言える出会いを果たしたのは、このときまだ誰も知らない。
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