最終章 私立浅越高校「第一」演劇部

第52話:残像:景色はどんどん生まれ変わっているんだぜ

翌日、私は学校へ行った。

下駄箱へ行くと、やっぱり、みんな、私をけた。

相変わらずイジメは続いている。

バタバタ上履うわばきの音。

ガイガイ人の声。

たち上がるほこり

白い朝日に蒸せ返る。

いつもの朝なんだろう。

なんかもう……、やれやれだ。

どうにでもしてくれって感じか。

卒業まで残り数か月、適当にイジメられてやるよ。

でも、自棄やけじゃない。

どう言うのか、どうも、こう……、付き合ってらんないって感じなんだ……。

廊下。

スクランブル交差点のように人がゴミゴミバサバサ行きう。

人目は気にならない。

音が、なんか、こう……、小っちぇーよな……。

私はスタスタと真っ直ぐ歩く。


教室へ入った。

ワイワイやってる。

5日振りの登校。

まるで日焼けた畳。

誰も私に目を向けない。

もう慣れている。

今さらイジメ始めのような新鮮さは無い。

いつものように無視されるだけ。

私が自席へ向かうと、さっそく川田が足を引っ掛けてきた。

めんどくせえなあ……。

もう、乗っからんぞ。

と私は無視しようと足を上げた。

と、その瞬間。


「やめなよ」


ビクンと教室が息をんだ。

川田も周りも私もギョッと一点を見る。

発したのは西野だった。

「そんな奴、ほっときなよ……」

と気弱にき捨て、そして、私をチラッと見た。

目が合ったが、私に特別な感情は無かった。

普通ににらんでたと思う。

でも、西野は、どうも力の無い、申し訳なさそうな、去勢きょせいを張った上目使いでこっちを見ている。

キョトンとまんまるな「お嬢さん」の目。


なんだよ、オメエ、高校生だったのか……。


私は、西野の目の前を、わざと風圧が掛かるように通り過ぎてやった。

教室は何も言えない。

私は自席へ座る。

困るみんな。

オチが無い小噺こばなしのよう。

誰か何とか言えよ、とお手上げのようだ。

ヒソヒソ、ザワザワ……。

私は頬杖ほおづえをついて、くたっと肩を下げる。


バカだな、私……。何も見えてなかったんだ……。


どうして今まで自分を好きになってやれなかったんだろう?。

どうして私自身を見てやれなかったんだろう?。

何だかずいぶん色んなものを失った気がする……。

文化祭を成功させて、今まで中途半端だった部活動を最後までやり遂げられたところで、私は、すでに、もう……。

なのに、バカな私は……。

暴力なんて些末さまつなだけ……。

みんなが私を見る。

私の身体からだが宙に浮かぶ。

上から見ると、ウヨウヨ、クネクネ、みんな自分を周りに合わせようと、自分を見失い、ちっぽけに生きている。


私は、もう、この世界の人間じゃないんだ。


じーんと身体からだが鳴った。

一日の終わり、熱い湯船につかかったよう。

何だか、どっと心地よくたびれた。

(つづく)

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