第7章 現実:分かったか!、キレイごとじゃ済まねえんだぜ!

第43話:後始末:生きなきゃならねえんだッ

気が付いたとき、夜の7時過ぎだった。

腕時計のガラス面がカスカスにけずられている。

月明かりが反射しない。

なけなしの溜息がポコッと口からこぼれる。

まだ、もち状態。

捨てられて夜風よかぜで固まっている。

持ち上げてみた。

キーンッと耳鳴りがして、胸にキリキリ電気が走る。


ツ……、ズタズタだ……。


息をすると脇腹がられる。

アバラが折れてるな……。

灰をみ込んだように胃が重い。

指先がビクビク痙攣けいれんしている。

ほおで地面の砂利をこする音が、耳の穴に、ウネウネと養殖のウナギのようにひしめく。

くせえな、ゴミ……。

こんな所にじっとしていたくない。

でも、身体からだが岩のようだ。

息をして血が廻り出すと、身体全体の表面がビリビリとしびれ出す。

悪寒おかんのよう。

頭がガンガン痛い。

しばらく動けそうにない。

なさけねえ……。

こんなとこ、人に見られたくない。

恥ずかしくてたまらない。

気絶している間に、もう見られたかもしれない。

誰にも一発打ち返せなかった……。

クソウ……。

誰も来るなッ……!。

最低だ……。

寒い。

起き上がるまで、まだ時間がる。

呼吸だ。

とにかく、まともに息ができる身体に戻さなければ。

それが取りあえずのリハビリだ。

私は、ゆっくりゆっくり深呼吸を慎重に繰り返す。

こうやって徐々に加速させていくんだ。

もう周りは真っ暗。

遠くでかすかに聞こえるうたげの声が胸に痛い。


30分ほどして、何とか立てた。

でも、まだ背筋は伸ばせない。

横の水み用の蛇口にうように身体を持っていき、水をガブ飲みした。

傷口にズキズキみる。

味なんて分からない。

パクパク、パクパクあごを動かした。

口の中の砂も一緒に呑み込んだ。

砂利がのどをガリガリけずる。

かまわない。

干からびたスポンジだ。

水を一気に含ませる。

身体にキーンと痛みが走った。

血がものすごい勢いで身体中をっ走る。

一つ一つ関節が痛い。

肉がやぶかれるよう。

圧倒的な打撲だぼくによる痛みだ。

身体が重くて固い。

でも、とにかく飲み続ける。

取りあえず腹が満たされる。

水は胃に吸い込まれる。

おそらく1リットルぐらい飲んだと思う。

ようやく真っ直ぐに立ち上がることができた。

帰らないと……。

鏡が見たい。

制服は砂埃すなぼこりと靴の跡だけのようだ。

たぶん、中はアザだらけだろう。

所々ほつれている箇所もある。

でも、人前には出られる有様ありさまではあるようだ。

砂だらけの制服を手ではらった。

ケバ立つ砂埃。

いちいち殴られるようで痛い。

ポケットの財布は無事だ。

抵抗しなかったからな。

できなかったんだよ……。

とにかく、電車には乗れる。

歩かなきゃ。

私は、重い巨大なローラーを引きるように一歩一歩、ズキンズキン痛みを浴びながら駅に向かう。


まぶしい。

人ごみが胸に刺さる。

駅だ。

ウヨウヨからミミズの群れのように人がうごめいている。

私は、腹を空かして腰を抜かした浮浪者のように、だらーっと口をあんぐり開けて、前かがみに一人だけ時間が止まったように突っ立っている。

みんな、速いな。

眩暈めまいがする。

藍色あいいろのサラリーマン。

金色のニーチャン。

ピンク色のネーチャン。

部活帰りの他校たこうの黒い高校生。

みんな、目の前をビュンビュン過ぎていく。

ズンズン地鳴りのような雑踏の音。

耳にベトつく。

き取ろうとすればするほど真っ黒に汚れ広がる。

私は、このネバネバドロドロしたうずけて電車に乗った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る