第41話:おとしまえ②:自力でやる

1階の廊下に下りると、西野が待っていた。

八坂もいる。

中村も樫山も。

これで川田が加わっていつもの5人だ。

私は西野と八坂の前にりた。

二人は目を合わさない。

接触しようとしない。

目の奥の座った、静かで安らかな表情だ。

もう、目的が決まっているようだ。

3人組が後ろを取り囲む。

西野と八坂は前へ。

私は歩かざるを得ない。

長い廊下。

ずっと先までつらなる窓。

夕陽の最後の一滴の光が、ドミノ倒しのように整然と差し込む。

影が薄く、重い。

丁度、の明かりと遠方かられる電灯の灯りの輝度が拮抗きっこうして、一面灰色の世界を作っている。

ここに音は無い。

聞こえるような……。

でも、祭りのあとの名残なごりだけ。

ただ、靴音が規則正しく響く、そして、長い廊下の先の見えない奥の暗闇の中へとけて消えていく。

頭の中がグルグル思考で旋回せんかいする。

カッターはないか?。

ヒモはないか?。

どこへ連れて行かれるのか?。

石はある所か?。

棒きれはある所か?。

必死で、どうやって抵抗しようか、思考する。

逃げようとは思わない。

私の選んだ道だ。

こうなることが分かっていてやったんだ。

いは無い。

でも、怖い。

膝がガクガク言っている。

しびれたまま歩いているように、足の裏にジンジン電気が走る。

膀胱ぼうこうと肛門が熱くぶわぶわふくれ上がり、おしっことうんちが破裂はれつしそうになっている。

西野は静かに迷いなく歩く。

背中に強い意志の力を感じる。

八坂もだ。

誰も止められそうにない。

岩のように固い。

ただ、前へ前へ、病的に規則正しく、軍人の任務遂行のように進む。

と、そのとき、曲がり角から突然池田が現れた。

「何してるの?」

池田は、キョトンと不可解な表情を浮かべて聞いた。

当然だろう。

明らかに組み合わせがおかしい。

池田は、先頭の西野と八坂の反応を待つ。

「ん……?。……」

二人はまごついて黙った。

今ならまだ間に合う。

助けを求めようと思えばできるだろう。

でも、私は強く否定した。

私一人で背負うと決めてやった。

だったら、おとしまえは自分で付けるべきだ。

覚悟はしていたはずだ。

それに、学校側に、しかも、部のイジメを無視してきた人間に頼って何になる。

人に頼るな。

私は、衣装部屋の鍵をつままんでぶらぶらさせた。

「使わなくなった衣装が欲しいって言うから、あげるんです。いいでしょ?」

 西野は表情を変えず、目ん玉を飛び出させて私を見た。

「そうなの?」

 池田はマヌケな口調で西野たちに聞いた。

「はい……」

 西野も裏返った礼儀正しい口調で返事した。

戸締とじまりお願いよ」

そう言うと、池田は何事もなかったように去っていった。

私は西野をにらんでやった。

最後の去勢きょせいだったのかもしれない。

西野は〝正気かよ?〟というように驚いてあきれた表情で私を見ていた。

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