第29話:地獄で友情。このままで終わると思うなよ

部活へ行った。

今は、唯一ここだけが安息の場所だ。

相変わらず上を下への火の車で、みんな、私になんか構ってられない。

構うにも、西野の目があるので、自然、私は取り残される。

この無作為に取り残される状態は、負の視線を浴びなくていいので逆に楽なのだ。

目の前を稽古けいこする部員たちが目まぐるしく行き過ぎる。

役者も裏方も、一人二役三役で大回転。

騒々そうぞうしすぎて、逆に、音が消える。

私は、一人考える。

どう打撃を与えるのか?。

どう報復するのか?。

西野を見る。

西野たちは、働く部員をよそに、冷蔵庫の横で身体をヌラッと机や椅子にもたれ掛けさせて、ヘラヘラとファッション雑誌をさかなに、スターバックスのラテをチロチロとめている。

それを、1・2年の手下が取り巻いて、これまた気怠けだるく斜めに座っている。

まるでチンピラだ。

しかし、チンピラのように半端者はんぱものの悲哀は無く、不良のマヌケさも無い。

確信犯的に突き抜けて垢抜あかぬけしていて要領が良く明るいのが西野の特徴だ。

こういうの何て言うんだろうなあ……。

公務員ヤクザとでも言おうか。

とにかく、多勢に無勢。

人を動かせなければ、ケンカにも勝てないし、部も動かせない。

早いのはトップダウンだ。

教師連中を味方につけて、今の部の実情を暴露するやり方。

自然、池田に目がいく。

板挟いたばさみになりながらも必死で演出している水谷をよそに、シカトして台本を眺めている。

こいつはダメだ。

こいつに頼るくらいなら、5対1で西野とケンカする。

と言うより、暴力ではない。

精神的ダメージだ。

ネットで中傷ネタでもバラくか?。ダメージ無さそうだな……。

SNSじゃ噂が広まるまで時間が掛かる。

即効性でインパクトのある方法……。

しかも一人で出来る……。

……。

溜息がれた。

めッ。

暗い性格になりそう……。

「こっち手伝ってッ」

水谷が私を呼んだ。

ここんとこ水谷は私をよく使う。

西野にやられたあとも、態度が変わらないのは水谷だけだ。

あえて同情の言葉を掛けることもなく、いつものように誰かれなく、平等に接する。

これは、水谷が、イジメという醜行しゅうこうにプロテストしているわけではなく、

同情からでもなく、

この人は、こういう人なのである。

つまり、天然にいい奴なのだ。

差別意識など無く、誰にでも公平に接する。

かと言って、私がイジメられている現実を把握できないほど鈍感でもないので、一人居場所の無い私に救いの手を差し伸べるべく仕事をあてがってくれる。

何だか気恥ずかしいけど、やっぱり胸にみる。

そんな水谷に気をつかわせたくないので、私はテキパキ事務的に仕事をこなす。

もちろん、水谷は、私の心なんて知るよしもなく、遠慮なくズバズバ仕事をよこす。

と言うより、水谷は、とにかく、文化祭にまっすぐ突っ走ってるんだ。

文化祭まで、あと一週間ちょっとだ。

水谷にとっては、3年間の集大成だ。

イジメだ何だかんだと言ってる場合じゃない。

必死なんだ。

こんな状況下でも夢中になれる水谷を、私はちょっぴりうらやましく思う。

今の私にはそんなに夢中になれるものはない。

きっと良い両親がいるんだろうなあ……。

私は、今まで、こんなに何かに夢中になって取り組んだことがあっただろか……?。

誰のためでもなく。

自分のために……。

そう思うと、何だか無性に西野に腹が立ってくる。

鼻にムンッと煙のような生ぬるい溜息ためいきがヌメヌメと巻きつく。

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