第26話:画策:それは先手か後手か?

私は、やっぱり西野を許せない。

水谷のためもあった。

文化祭のためもあった。

出しゃばりなのは重々分かっていた。

でも、何よりも、私自身、今度こそは、部活を最後までやり遂げたいという気持ちで一杯だった。

これだけイイ奴らに出会えたんだ。

何とかまっとうしたい。

自分自身にケジメをつけたい。

今度は、私が体育館裏に浅倉を呼んだ。

向かい立つ浅倉と私。

灰色のコンクリート。

何も無い。

なのに、浅倉は、ディスカウントストアのバッタ物を物色するように、あちこちキョロキョロ見まわしている。

片膝をカクカク、リズムを刻むように貧乏ゆすり。

相変わらず、こいつだけは、なに考えているのか分からん。

何がね返ってくるのか?。

取りあえずケツをぱたいてみる。

「あんた、どういう状態になってるのか分かってんの?」

 私は、いきり立ちたかったが、我慢して押さえた。

「なんとなく……」

 まるで、とばっちりを受けた被害者のように、無責任なムスッとした口調で言う。

「何とも思わないの?」

「俺にどうしろって言うんだよ……」

 反射的に手が出そうになった。

 ウッと気をみ込んで我慢した。

 しかし、肩がドクンッと盛り上がったので、浅倉はビクッと歯を食いしばって身構みがまえた。

 こわごわ私を見ている。

「みんなで文化祭成功させようってことでしょう?。西野さんたちなんて男子目当ての冷やかしで来てるのよ。そこんとこ上手くコントロールして、あの人たちにも作業手伝わせなよ」

 あえて「浅倉目当て」とは言わない。

 変にプライドを刺激して、また例の天然の気まぐれな無責任には逃げ込ませない。

「あんたならできるよ」

 私はさとすようにお世辞を言ってやる。

 浅倉は〝何で俺が……〟とでも言うような、面倒臭そうなかったるい表情で口をとがらせた。

「そんなこと言ったって、俺は、西野さんたちを動かす立場じゃないよ」

 立場……。

 政治家か、お前は。

 みょうに要領のいい意見を言いやがる。

 どう打っても、どうにかこうにかかわしやがる。

 これじゃ収拾がつかん。

 みんなの苦労考えたことあんのか。

 もう限界なんだよ、みんな。

 何とかしたいんだよ。

 がっくりくる。

 これは、少し卑怯ひきょうなカードを切らなきゃならない……。

「じゃあ、私、辞める」

 サラッとっぱなして言ってやった。すると、急に目の色を変える。

「そりゃ、困るよ」

「みんな、困ってんだよッ!」

 間髪かんぱつ入れずにツッコんだ。

「……」

 ショボンとなる。

 何か考えているようだが、しかし、正直、なに考えているのかさっぱり分からん。

 こいつは理屈じゃない。その日の感覚、直感だ。

 浅倉は、私になじられる今の心境に不満なのか、ようやく不機嫌そうにき出した。

「わかったよ。それとなく言ってみるよ」

 どっと疲れが出た。

 溜息が垂れ落ちる。

 浅倉は実に迷惑そうにしていたが、私は、やっとの一言が出たので、一応はなしてやった。

 しかし、どうも上手うまくいきそうにない……。

 と言うより、頼りない。

 何か良からぬことをしでかすかもしれない。

 そんな不信感がめらめらと私の腹の中で煮えたぎっていた。

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