第22話:抵抗:まだ終われねえよッ!

翌日、学校へ行くと、昨日のことは誰も知らなかった。

西野たちは、わざと私を見ようとしない。

お情けってわけか……。

今回は内々ないないで処理してやるというわけだ。

余裕。

悔しい……。

ますますはずかしめを受けた感じだ。

いっそのこと、言いふらしてくれた方が良かったかもしれない。

その方が、私だって「西野に抵抗した」ってはくが付くってもんだ。

このあと、今日の部活。

私は、黙ってギターをかなければならない。

無条件降伏しろってわけだ。

くそうッ、ナメやがって。

こんなことでりたと思うなよ。

誰が「はい、そうですか」って言うもんか。


放課後、私は、体調不良と嘘ついて、バンドの練習に行ってやった。

おさまらない。

知るもんか。

最低になってやる。

 Going down. Down down down down down.

 (堕ちていく、俺はどんどんどんどん堕ちていく)

 I've got my head out the window.

 (俺は窓から頭を出して)

 And my big feet on the ground.

 (そしてデカい足が地面に堕ちる)

フレディ・キングの『Going Down』を大音量で弾きまくった。

ギュルンギュルン振動が防音へきに打ち突ける。

それが、また私の身体にね返って、皮膚をビリビリ竹箆しっぺする。

ブラウスの第一ボタンが外れてブラジャーが見えても気にならない。

「荒れてんなあ……」

メンバーがあきれて見ている。

サボってくギターは格別の音だ。

水谷派の部員に聞かせてやりたい。

御法度ごはっとのブルースだい!。

ニョキッとのぞく頭。

そっとドアが開いた。

メンバーの一人がしかめっ面で入って来た。

〝ダメだ、逃げろ〟と、首を小刻こきざみにブルッと震わせ合図する。

西野たちだ。

やっぱり勘付かんづきやがった。

西野のガサれが入ったら知らせてくれと、あらかじめ言っておいた。

私は、急いでギターを丁寧に置き、裏口から便所へ飛び込んだ。

土足のまま便器に上がり、モグラのように小窓に頭を突っ込んで、尻をくねくね振って身を外へ押しやる。

まるで壁の隙間すきまからい出てくるミミズのようだ。

腰まで出ると、真っ逆さまに地面に落ちた。

反射的に空中で半回転して、ドテンと尻から着地。

アスファルトがズキンと平たく腰をえぐる。

パンツ丸見えだよ。

イッテーと余韻にひたたるもなく、上からカバンが落ちてきた。

ドオンと頭のしんを直撃してクラクラ酔っ払う。

「早くしろッ」

メンバーが小窓から大きくささやいてくれた。

私は、カバンのふちをクソ力で鷲掴わしづかみにし、駅の反対側へ、つんのめりながら素っ飛んでいった。

駅へ行かなかったのは、なぜだか分からない。

裏をかいているという余裕は無かった。

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