第93話 中央教会で登録
空間魔法を試したあとは、リュシアンと合流してすぐに屋敷に帰った。そして次の日の放課後。
今日は研究会には行かず、中央教会で屋台販売権を得て屋台を借り、材料を揃えてクレープの試作をするつもりだ。
今は王立学校を出発した馬車の中にいるが、何故かリュシアンも一緒にいる。今日は研究会に行かずに帰るから、馬車じゃなくて俺だけ歩きで帰るって言ったんだけど、リュシアンも一緒に帰って買い物に付き合うって言われて断れなかった。リュシアンがいても楽しくないと思うけど、いいのかな?
「リュシアンは本当に帰るので良かったの? 中央教会や銀行、お店に行くから忙しいし楽しくないと思うけど」
「レオンといると楽しいぞ! レオンがやることは新しいことばかりで楽しい」
「まあ、それならいいんだけど……」
俺ってそんなに新しいことやってないと思うけどな。まあ、楽しんでくれてるならいいか。
「それで、どんな材料が必要なんだ?」
うーん、屋台をやるにはまず調理器具が必要だよな。クレープを作るには鉄板で皮を焼かないといけないから、鉄板とお玉は必要だ。本当は生地を丸く伸ばすための道具があればいいんだけど、無ければお玉で代用するのでもいいだろう。
それからひっくり返すフライ返しも必要だし、生地を作るボウルも必要だな。あとはクレープを作る場所としてまな板、包丁も必要だ。
また、クレープの中身をどうするかにもよるよな。一応今のところは、おかずクレープ一種類と甘いクレープ一種類にしようと思ってる。もっとたくさんの種類を作ろうかと思ったけど、屋台って基本的に一つのものしか売ってないから、あまり増やさない方が受け入れられるだろう。
できればマヨネーズかそれに近いものは作りたいから、それを作るためにボウルと泡立て器も必要だな。泡立て器ってあるのかな? なければフォークで代用しよう。あとフライパンも一つは必要だ。それから、スプーンも盛り付けなどにあったら便利だろう。
このくらいかな……とりあえず今日は思いついたものを買って、また足りなければロニーと回復の日に買えばいいだろう。
「とりあえず調理器具は、鉄板、フライパン、お玉、フライ返し、ボウル数個、まな板、包丁、泡立て器、スプーンかな。また足りなかったら買い足すよ」
「結構必要なんだな。食材は?」
食材は……おかずクレープは簡単なんだ。豚肉を塩で焼いて、その時期の新鮮な野菜とマヨネーズと合わせる予定だ。ただ、マヨネーズを作れるのかって問題はあるんだけど、色々試せばそれっぽいのはできるはず! 確か、卵と塩、油、あとお酢だっけ? 砂糖だっけ? その辺をよく混ぜればいいんだよな。できるはず……多分。
問題は甘いクレープだ。材料をしっかり考えないと、どうしてもコストが高くなる。この世界で売ってるもので思いつくのは、砂糖、果物、蜂蜜、メープルシロップだな。
ただ、果物はたくさん栽培されてないようで結構高いし、メープルシロップは輸入品らしくたまに見かける程度だ。
そうなると、蜂蜜と砂糖だな……この二つも高いけどそこまででもないし、中心街や周りの市場では普通に売っている。
うーん、そういえばバターも中心街でなら買えるよな。それなら蜂蜜バターとか美味しそう!
とりあえずそれでいこう。そこまで甘いクレープに拘らずにおかずクレープだけでも良いんだけど、なんとなくクレープ屋に甘いクレープがないって俺が嫌なんだよな……まあ、売れなかったらすぐにやめるけどね。その時はおかずクレープの種類を増やそうかな。
よしっ、あとはクレープの生地だな。生地は……小麦粉と、卵、砂糖かな? 確かクレープの生地って少し甘かった気がするし。とりあえず小麦粉、卵、砂糖があれば形にはなるはず! 本当は牛乳が欲しいんだけど簡単に手に入らないから……水で代用だな。前のパンケーキの時は形にはなったし大丈夫だろう。
「食材は小麦粉、卵、砂糖、蜂蜜、バター、豚肉、野菜、油、塩、お酢かな。これでできるはず」
「結構色々必要なんだな。今日帰ったら作ってみるんだよな?」
「うん、そうだよ」
「私も食べてみたい!」
「もちろんだよ。他の方にも試食して欲しいんだけど、いいかな?」
「いいに決まってる! お祖母様はすごく楽しみにしていたぞ」
「それは頑張らないとだね」
そんな話をしていたら、中央教会に辿り着いた。こんな近くまで来たのは初めてだけど、凄く大きな建物だな。
「じゃあ行ってくるね。リュシアンも行く?」
「ああ、馬車にいても暇だから一緒に行くぞ」
「じゃあ行こうか」
俺はリュシアンと一緒に中央教会に入っていく。中央教会の入り口は大きな扉になっていて、開きっぱなしみたいだ。中は礼拝室なのかと思ったら、日本の市役所みたいに受付がたくさんある。これ教会じゃなくない?
「何か、教会っぽくないね」
俺が、リュシアンに聞こえるギリギリくらいの小声でそう言うと、リュシアンは不思議そうな顔をした。
「そうか? 私にとってはこれが教会だが……」
「そうなの? 領都の教会もこんな感じ?」
「ああ、ここより小さいが作りは同じだな」
俺の家の近くの教会は、俺がイメージする礼拝室が主な教会だった。ということは、重要なところから市役所風に改装してるのかな? 確かに行政的な役割を担うなら、礼拝室では不便だもんな。
俺は中をぐるっと見回してみる。結構広いなぁ、目的によって受付が分かれている作りのようだ。一番端に礼拝室はこちらと看板があるので、一応礼拝室も奥にあるみたいだな。
俺は商売関係の受付に行き、空いている受付に話しかけた。
「こんにちは。屋台販売権が欲しいのと屋台を借りたいんですけど、こちらの受付で良いのでしょうか?」
「はい。こちらで手続き致します。では、こちらとこちらの書類に記入頂けますか?」
「はい」
書類は簡単なもので、名前と年齢、住んでいる場所くらいしか書くことがなかった。
「これで大丈夫でしょうか?」
「はい。こちらで処理させていただきます。屋台販売権は一年ごとに更新する必要があり、その度に銀貨一枚お支払いいただきます。本日は初回登録料として銀貨三枚です。また、屋台の貸し出しは半年ごとの更新で、貸し出し料は半年で銀貨五枚です」
そこまで高くないのか……? いや、屋台をするのは平民の中でも貧しい人が多いから、それを考えるとかなり高いな。もしかして、広場によって値段に違いがあるのかもしれない。俺が屋台を出すのは中心街の入り口にある広場だから高いのかもな。
「本日は合計銀貨八枚です」
「はい。これでお願いします」
俺は銀貨八枚をピッタリ渡した。結構ギリギリだったよ……銀行行かないとやばいな。
というか、屋台始めるって元手がないと辛いんだな。そういえば、広場で屋台がたくさんある中で、地面に布を敷いただけとか木のテーブルだけとかで物を売ってる人達がいた。
あの人たちって屋台が借りられない人なのかも。
「確かに受け取りました。こちらが屋台販売権、こちらが屋台貸し出し証です。屋台では基本的に何を販売しても良いですが、法に触れるものは禁止されていますのでお気をつけください。また、屋台に損壊などがあった場合は損害賠償が発生いたしますので、丁寧に使用をお願いします。他に質問はございますか?」
「そうですね……使用できる井戸はあるのでしょうか?」
「ございます。広場には二箇所井戸がありますので、お好きな方をご使用ください」
「ありがとうございます。他には……今は思いつかないので、疑問点が思い浮かんだらまた聞きに来ても良いでしょうか?」
「はい。いつでもお越しください」
そうしてスムーズに登録は終わった。そしてそのあとまずは銀行に行き、白金貨十枚分を金貨や銀貨など、その他の細かい硬貨にして下ろしてもらった。日本円に換算すると、大体一千万円くらいなので一気に大金持ちになった気分だ。なんか怖いな。
盗まれないように、鞄に入れる振りしてアイテムボックスに入れておいた。これでしばらくは安心だな。
よしっ! 次はついに買い物だ。
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