第77話 ロニーへの説明
次の日の朝。
今日から本格的に授業の始まりだ! 凄くワクワクしてるはずなんだけど、教室に行った時の反応をいろいろ考えて落ち込んでいる。俺は無理にでもテンション高く振る舞い、朝の支度を終えた。
昨日の夜早く寝ようと思いつつ、色々考えて結局夜遅くまで眠れなかった。時間をおいて冷静になったら、自分がどうなるのかに思い至ったのだ。
これからの俺は、腫れ物のように扱われるか、無視されるか、平民のくせにときつく当たられるか、悪い想像しかできない。
多分想像通りなんだろうな……普通に俺と友達になってくれる優しい子はいるだろうか? クラスにも友達が欲しい……ロニーはどんな反応をするだろうか? ロニーに怖がられるのが一番ショックでかいかも……
俺はリュシアンと共に馬車に乗り、王立学校へ向かう。
「到着いたしました」
そう言った御者の声が聞こえた。憂鬱だなと思ってる時ほど着くのが早く感じられるんだよな……
でも行くしかないか! うん、行こう!
俺とリュシアンは馬車を降りて、本館に入った。そして階段を上がっていく。
俺の足取りはどんどん重くなるよ……
「レオン? 大丈夫か?」
「はい。昨日のことがあって色々考えてしまい、少し憂鬱なだけなので……ご心配ありがとうございます」
「そうか。しっかりと仲直りするんだぞ」
「かしこまりました」
リュシアンは、俺が憂鬱な原因を昨日喧嘩した相手と会うからだと思ってる。だけど違うんだよな……サリムはどうでもいいんだ。それよりも、クラス全体の反応とロニーの反応の方が気になるし怖い。
「では私はこっちだから行くぞ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
「ああ、また放課後に」
「放課後、玄関ホールに参ります」
そうしてリュシアンと別れて、俺は自分の教室までトボトボと歩いた。
できるだけゆっくりと歩いたが、そんなに遠くないのですぐに着いてしまう。
もう気合を入れるしかないな! よしっ!
俺は気合を入れて、教室の扉を開けた。そうして一歩教室に足を踏み入れると……
…………思ったほど反応はなかった。
ジロジロ見られたりもしないし、睨まれたりもしない。
これは……皆昨日のことは気にしてないってことか? それはありがたい!
俺は少し心が軽くなって席に着いた。まだロニーが来てないので誰かに話しかけてみようかと考えて、前の席に座っている男の子に話しかけてみることにした。
「初めまして」
俺がそう声をかけると、あからさまにビクッと体が震えて恐る恐る後ろを振り向いてくる。
なんか顔色悪いけど大丈夫?
「……何のようでしょうか?」
「用があるわけではないんですけど、近くの席なので仲良くなりたいなと思ったのですが?」
「えっと……すみません!」
その子は、そう言ってどこかに走り去ってしまった。えっと……どう言うこと?
俺は席を立って他の子にも話しかけてみようと思ったが、俺が近づこうとするとみなさりげなく遠ざかっていく。
これって……やっぱり腫れ物のように扱われてる? それとも無視されてる?
でも俺がいじめられそうな雰囲気っていうよりは、皆が俺に怯えてるみたいなんだけど……
公爵家の後ろ盾があるって言っても俺は平民だし、このクラスの皆は騎士爵の子供だよな? それならそんなに怯えることない気がするけど。
もしかして、公爵家の後ろ盾って俺の予想以上にすごいのかな? 凄いのだろうとは思ってたけど、俺自身は平民だから身分が上がったわけでもないし、実感は全然ない。
とりあえず、皆が怖がってるから話しかけるのはやめよう。話しかけて怖がられるのって、なんか寂しいな。
俺は落ち込んで席に着いた。ステファン、マルティーヌ、リュシアンもいつもこんな気持ちなのかな? これは結構寂しいね。
とりあえず静かに座っていると、サリムが教室に入ってきた。サリムなら話してくれるかもと思って目を合わせたが、俺と目が合うとすぐに目を逸らされてそのまま声を発さずに自分の席に座ってしまった。
なんか……これなら昨日の方がマシだったかも……
俺は思い切って、サリムに話しかけることにした。
「サリム」
サリムは、俺が名前を呼ぶとビクッとして恐る恐るこっちを向く。
「あっ、敬語の方がいいかな? 同じ平民だしタメ口でいい?」
「いや、タメ口で大丈夫です……」
サリムが敬語になってるし、昨日の勢いはどうしたんだよ!
「なんでそんなにビクビクしてるの?」
「それは……昨日不敬なことを言ってしまったので」
「あれは確かにイラついたけど、ただの喧嘩だよ。俺は平民なんだし不敬も何もないでしょ」
「ですが……レオン、様は公爵家の後ろ盾をお持ちのようでしたので……昨日のことは本当に申し訳ありませんでした!」
サリムがいきなり謝ってきた。えっと……公爵家の後ろ盾ってそんなに怖いの?
「公爵家の後ろ盾ってそんなに怖いの?」
「そんなことも知らない……! あっ……すみません……えっと、公爵家は貴族の頂点ですのでとても畏れ多く……」
サリムは一瞬、昨日のように俺を怒鳴りつけようとしたが、すぐにまたしおらしい態度に戻ってしまった。
「あの……すみませんが、用事を思い出したので失礼します!」
サリムが教室から出て行ってしまった。
とりあえず、公爵家の後ろ盾は平民や下位貴族にとっては、凄く怖いもののようだ。
多分これって中位貴族くらいからは、平民のくせに公爵家の後ろ盾くらいで威張りやがってって言われるパターンだな。下位貴族だととにかく近づくなって感じなのかも。なんか寂しい……
とりあえず誰にも話しかけられないし、俺はロニーが来るのを待った。
しばらく待っていると、ビクビクとしながらやっとロニーが現れた。
「ロニーおはよう! やっと来てくれたんだね」
俺はロニーを逃さないように、さりげなく腕を掴んで椅子に座らせた。他の友達を作ることはもう諦めたけど、ロニーは昨日友達になったんだから話せばわかってくれるはずだ。
友達がクラスに一人もいないなんて絶対に嫌だ! それにロニーと仲良くしてれば、他の人も怖がらなくなってくれるかもしれない。
「ロニー、昨日は急に帰っちゃってごめんね」
「い、いや、僕は全然大丈夫だよ」
ロニーは昨日以上にビクビクしてる。はぁ〜、やっぱり怖がられてるのかな。
「昨日は驚かせてごめん。俺はタウンゼント公爵家の後ろ盾で王立学校に入学したんだ。だから公爵家の屋敷に住まわせてもらってる。だけど、俺が食堂の息子で平民であることに変わりはないから」
「そ、そっか……」
「だから……昨日みたいにこれからも仲良くしてくれないかな?」
「え、えっと……でも、立場が違うし……」
「立場なんて同じだよ。俺自身はただの平民なんだから」
「でも、そうは、思えないと言うか……やっぱりそれは、違うというか……」
やっぱりまだ怖がられてるみたいだな……俺このままこのクラスで友達できずに終わるのかな。
せっかくの学生生活でぼっちなんて悲しすぎる……
俺は、さっきから怖がられたり腫れ物のように扱われたりして、めちゃくちゃ落ち込んでいる。
これ以上ロニーを怖がらせたら可哀想だよな。俺はロニーの腕を離して自分の席に着いた。
ちょっとだけ学生生活への期待もあったんだけど……灰色の生活になりそうだ。
はぁ〜、俺はなんだか疲れて、腕を枕にして机に突っ伏した。こうしてると何も目に入らなくていいな……俺いじめられてるみたいだ。いや、みたいじゃなくて実際いじめだよな。みんなに避けられるんだから。
でもこの場合は、俺自身に何かをされる可能性はないからいじめよりはマシなのかな。でも下位貴族からは避けられて無視されて、中位、高位貴族からはいじめられそう。
なんか俺って可哀想すぎない? どうすればいいんだ? 全属性のことを明かすとか? でもそうしたら敵対勢力や他国に狙われて、その代償として友達ができるかと言えばできない気がする。なんかより怖がられそう。
どうしようもないじゃん……
「レ、レオン!」
俺が自分の世界に現実逃避していると、ロニーに名前を呼ばれた。
「ごめんなさい!」
え? なんで俺が謝られてるの?
俺はびっくりして顔を上げて、ロニーの方を見た。するとロニーは泣きそうな顔になっている。
え? なんで泣きそうなの? 俺のことがそんなに怖かったの? それは流石にめちゃくちゃ落ち込むよ?
「僕……昨日のことにびっくりして、高位の貴族様と知り合いなんて怖いと思っちゃって……最低な態度とったよね。本当にごめんなさい! 昨日一日話してレオンが良い奴だって知ってたのに……」
そう言ってロニーはついに泣き始めた。
ちょ、ちょっと! これだと俺が泣かせたみたいじゃないか! 男ならそんな簡単に泣くなよ!
「ロニー、俺は別に大丈夫だから、とにかく泣き止んで! これだと俺が泣かせたみたいだから!」
「で、でも……僕最低なことを……友達を怖がるなんて……」
もっと泣き顔が酷くなってきた。
「ロニー、気にしてないから! 確かに公爵家の後ろ盾があるって聞いたら、俺でも怖いと思うだろうし……」
なんて言えばいいのかわかんないよ!
大丈夫だよ? それはもう言ってる。
気にしないで。 それも既に言ってる!
どうすれば伝わるかな……うーん…………
「ロニー、じゃあ改めて友達になってくれる?」
「…………許して、くれるの?」
「許すも何も別に怒ってないし」
「レオン……あり、がとう…………」
ロニーはそう言うと、泣き止むどころかより泣き出した。え? なんでそうなるの!?
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