第4話


展開が分からなすぎて、開いた口が塞がらなかった。


「じゃあ、何て呼べばいいんだ」


「何でもいいわよ、お好きなように」


かなり冷静沈着な子だった。これが、ツンデレ、クーデレというやつか。


銀髪黒眼なその美貌は美少女の象徴とも言える。どこか哀愁漂うその目はどこも見ていなかった。目すら俺と合わせない。ショートヘアーで肩に付くくらいの髪はストレート。しなやかな髪でサラサラしているに違いない。肌が白く、透明感がある。

その透明感に引き込まれそうになった。見た瞬間、容姿を好きになってしまった。


そんな美しい容姿とは裏腹に名前が無いのは驚きだった。


「渾名付けるの苦手なんだ」


「そう。なら?《はてな》か名無しでいい」


「いくらなんでも?と名無しは可哀想だろ」


「皆もそうよんでるのか?」


「わたしは心無ここな」と乃愛が答える。


「こおりちゃんって呼んでるけど」と紗弥奈がそれに続く。


「魔王」と霞が放った。


「一応理由聞いてもいいか?」


乃愛は心が無いから、紗弥奈は冷たく冷静だからこおり、霞は真の魔王の力を秘めてそうだから、という理由だった。皆の理由がいじめレベルで酷すぎだった。


結局、良い名前が見当たらなかった為、?に決めて統一した。


「どうして名前が無いんだ? 答えられる範囲でいいから教えてくれないか」


「捨てられて親がいないから」


痛ましい事実に胸が痛んだ。


麻邪実よりこの子の方が精神状態マズイ。


「まあ、分かった。?の名前は後々考えるとして」


じゃあ、空白欄に丸付けよう。


これで全員分の安否が確認された。


***


「体調悪い子とか怪我してる子いない?」


「健康です」と美少女たちは口を揃える。


「怪我は?」


「この前、料理してる時人差し指切ったくらい」と乃愛が言った。


「大丈夫か?」と聞くと絆創膏を貼って処置はしているから大丈夫との事だ。


怪しいのは麻邪実の手首からしたたる血と霞の頭と腕全体を覆う包帯の2つ。


どちらから聞くか迷ったが、軽そうな霞からにした。


「霞、その包帯。どうしたんだ? ぶつけたり、骨折でもしたのか?」


「これは我が封印されし怪物――魔物がんでいるんだ。それを解くとこの一帯が闇で覆われ、暗黒の世界として生まれ変わるのじゃ。だから解いてはならない、。絶対に、だ」


「もう分かった。魔物が棲んでいるんだな、魔物が」

軽く受け流し、深くツッコまないことにした。話しても多分話、通じないから。


「それでヤミ子、手首見せてみろ」


「嫌よ」


強引に腕を掴み、引き寄せた。


「嫌、離して!」


よく見てみると手首には何本もの赤い線が深く刻まれていた。


「これ、どうしたんだ? いや、わざとだな」


黙る麻邪実。


手にはカッターが握られていた。


「ポケットの中も見せてみろ」


「はい」と差し出されたのは6本のカッター。


「リスカしてました」


「駄目じゃないか。そんな事したら。折角の色白で綺麗な腕が台無しになるだろ」


「嬉しい。そんなに褒めてくれるの🖤?」


「褒めたつもりじゃないんだが」


「何がつらくて何が嫌でこんな事してるんだ。つらい事があったら俺に言え」


理由が知りたかった。


「ありがとう。血ぃ見るの好きだから。生きてること自体がつらい」


「そうか。つらそうには見えないけどな。俺は麻邪実の為に生きてる楽しみや喜びが提供出来るように努力する」


「痛くないのか? 見るのも痛々しいけど。大丈夫?」


すると、きゅるんと大きく丸く目を見開いて

「心配してくれるの?」と上目遣いで問いかけてきた。


やばい。可愛い。

小悪魔的な微笑みが心臓をズキューンと撃ち抜く。


「心配するよ、そりゃあ」


「もうリストカットはしないって約束できるか?」


「できない」


その即答にひどく心を疲れさせた。

溜め息をひとつ吐く。


「じゃあ、カッター没収ー!」


「いやあああ、キャラが壊れるー」


「キャラとか関係ねえよ」


今日も今日とて女子寮は賑やかだった。二人とも心配して損した。




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