9:悪役令嬢と招待状
あのデビュタントパーティーの日から5年。セリィナは15歳になった。
ほんのりと幼さを残してはいるが、その仕草や体つきは美しく女性らしいものへと確実に変化している。いまやセリィナは立派な淑女へと成長していたのだが……それは見た目だけの話であり中身はあまり変わっていなかった。
***
もうすぐ学園入学。とうとうゲームが開始されてしまうと思うと不安でいっぱいの私だが、その不安のせいでいつもにましてリアルに例の悪夢を見てしまいまたやらかしてしまっていた……。
カーテンの隙間からこぼれる柔らかな眩しさに目を覚ますが、目を開けた瞬間に硬直する羽目になる。
「あら、お目覚めかしら?」
すでに執事服を着てお茶の準備をしているライルが、私の頬をつんとつついた。
私、またやっちゃった……!
そう、ここはライルの部屋だった。もう15歳になったというのに、私はまたもやライルの部屋に忍び込みベットに潜り込んでしまったのだ。もはや無意識の行動である。私は夢遊病なのかもしれないと真剣に悩んだものだ。
「ご、ごめんなさいライル……!」
「うふふ、大丈夫よ。セリィナ様の可愛らしい寝顔も見れたしね」
にっこりと笑うライル。もうライルは23歳になり、さらに色っぽくなった。まさしく大人の色気だ。
ずっとお子ちゃま精神だった私でもさすがにライルが綺麗なだけじゃないと気付くようになってしまったのだが、本能には逆らえずにいる。
それにライルも、もう私がベットに潜り込んできても慣れたもので今さらだと笑って許してくれるのだ。ライルの中では私は今だ7歳の子供のままなのかもしれない。
しかし私はもう15歳。一般的な貴族なら婚約者がいて早ければ結婚だって出来る年齢になってしまったわけで、さすがにこのままではいけないと思ってはいるんだけど……。
なので、私は学園入学前に決意したのだ。
「私、ひとり暮しする!」
「ダメよ」
はい、速攻反対されました。ライルに。
なんで?!なんでダメなの?!だってひとり暮しすれば家族の恐怖からも離れられるし、ライルの寝床に忍び込むこともなくなるんだよ?!みたいな事をオブラートに包んで訴えてみたが、私の訴えはライルの笑顔で跳ね返される。
「あのねぇ、簡単にひとり暮しなんて言うけれど大変なのよ?なによりもセリィナ様は公爵令嬢なんだからそんなこと許されるわけないでしょう?」
「うぅぅ……」
でも、きっと家族のみんなは私の事を疎ましく思ってるはずだし家から出ていけば喜ぶと思うんだけどなぁ?
だってもうすぐゲームが開始してしまう。そうすればあっという間に
「そんなことよりセリィナ様、パーティーの招待状が届いているわよ?」
「私に招待状?」
義務的なパーティー以外で私宛に招待状が届くなんて珍しいが、物好きな貴族からたま招待されたりする事がある。
実はこの5年の間、社交界デビューした令嬢として最低限のパーティーには顔を出さなくてはいけないときがどうしてもあったのだが、そんなときはライルが男装してラインハルトとしてパートナーを勤めてくれていたのだ。
ほんの数回だけのことだが、例のキズモノ令嬢が見目の変わったパートナーを連れていると瞬く間に噂は広がり、噂は尾ヒレや背びれをつけて泳ぎ回るわけで……。そんな珍しい取り合わせの私たちを見てみようと考える者がそれなりにいるということである。
「また例のラインハルトを見てみたいって人たちかしら?」
「それが、どうも王子が主催しているパーティーのようよ。今年学園に入学する者は必ず参加するようにですって」
王子が主催と聞いて一気に血の気が引く。そんなの嫌な予感しかしない。
「い、行きたくない……」
私は必死に顔を横に振るが、ライルは残念そうにため息をついた。
「どうやら不参加は無理そうよ。ほらここに……」
ライルが招待状を広げて私に見せるとある箇所を指差した。そこには“セリィナ嬢とラインハルト殿は必ず参加するように”みたいな事が遠回しにしっかりと記載されている。
「しかも王家の紋章入り……これって参加しなかったら公爵家が罰せられるってこと?」
「あの王子ならやりそうね」
あのデビュタントパーティーで目をつけられたものの、この5年間は何も手出しはしてこなかった王子が何か企んでいる気がしてならなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます