鈴木無花果の三題噺

三題噺トレーニング

猫と蝙蝠【蝙蝠/髭/火鉢】

この界隈では"トラ"で通っているネコである。

トラの縄張りは広く、この近辺の主だった。

悪さはなんでもした。

ネズミをなぶり、人間の焼く魚を盗むこともしょっちゅうだった。

だが今トラは衰弱して今にも死にかけていた。

倒れたガレキに挟まれて身動きが取れなくなっていた。

そこに現れる一匹のコウモリ。

「喰ってやるぞ」

威嚇するがコウモリは聞かず、木の実を渡す。

しかしトラは木の実など食べられない。

「弱っているあなたを放ってはおけない」

「俺はコウモリを喰うためにこうなった。仕方のないことだ」

どうしてこうなったのか。

その日はコウモリを狩ろうとしていた。

コウモリが暗がりの洞窟に逃げ込んだ。

隙間へ逃げたコウモリを追いかけて飛び込んだ瞬間、身体が通り抜けられず、その衝撃で隙間のガレキが動き、脚を挟まれてしまった。

人間が外の七輪で焼いていた魚を盗んだ時、ヒゲが焦げて短くなってしまっていた。

隙間の幅を見誤ったのだ。

「いいからせめてこれを食べてください。何かの足しになるかもしれない」

コウモリの優しさに心を動かされるトラ。

「これまでコウモリにたくさん悪さをして申し訳なかった」

厚意に応えて木の実を食べると事切れるトラ。

コウモリが渡したのは毒の木の実。

コウモリは以前トラに殺されたコウモリの子供だった。

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