音楽は素晴らしいものだ【キンモクセイ/ビスクドール/引き出し】
生徒会室の机の引き出しを開けるとキンモクセイが入っていた。そう言うと気取った嫌味ったらしい言い回しに聞こえてしまうかもしれないが、引き出しの中のそれは、オレンジのあの秋に咲く可憐な花ではなく、CDだった。
CDのケースに『音楽は素晴らしいものだ』という言葉と、キンモクセイの文字。ジャケットはメンバーらしき人たちが仲良さそうに写真を撮っている。
何だこれは。きっと生徒会の誰かが忘れていったものだろうと思ったが、なんだか気になり、結局借りていってしまった。
家に帰ってCDを妹から借りたラジカセに入れて聞いてみる。気に入ったらMDに焼いて返却しておけばいいだろう。
そう思い、再生をスタートした。
CDがキュイキュイと鳴って音楽が始まる。
最初の曲から軽快な音楽が流れた。
タイトルは『手の鳴る方へ』。おお、何だかいい感じの曲だぞ。
そして、数曲後、作業をしている手が止まる。曲のタイトルは『二人のアカボシ』。
衝撃が走った。高速道路の端を駆け抜けて君連れたまま、二人このまま遠くへと逃げ去ってしまおうか。
この一節に、感じ入るところがあった。
妹と2人、このまま遠くへと逃げ出せてしまえたら、それはどんなに素晴らしいことだろうか。ちょうど今やっていた作業が、妹の服をビスクドール用にリメイクしていたから余計にそう思ったのかもしれない。
妹は身体が弱くて、余命を宣告されていた。それの慰めになればいいと、ビスクドールを買って、妹がまだ元気だった頃に着ていた一番お気に入りの服を使ってビスクドール用の服として仕立てていた。
しかし、一体誰のCDだったんだろうか。
謎は深まるばかりだが、まあ今度話を聞けばいいや、と気分良く作業を行なった。
没頭すること数時間後、いい服ができた。
出来た服をビスクドールに着せると妹に似たドールはにっこりと笑ってくれた。そんな気がした。
よかった。この出来なら妹も喜んでくれるかな。でも。今度、目を覚ましてくれるのはいつになるんだろうか。
リピート再生しつづけていたアルバムがまた最後の曲になった。『さらば』という曲がアップテンポなリズムで流れていく。
こんにちは、ありがとう、さよなら、また会いましょう。うってつけの言葉はないけど帰ろうよ家まで。
流れている曲を聴きながら、ああ、そうだねと歌詞を噛み締める。
いつか妹が家に帰ることを願って、ぼくは服を着せてあげたドールを今度妹の病室に持っていってあげることを決めた。
いつか彼女が目を覚ます時のために。
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