第4話 選手カーを破壊しろ
俺はこの能力を手に入れた日、すぐに仕事を辞めた。
当たり前だ。
これほどの能力を持った人間が一般企業で働いている場合か?
俺には社会をより良く導く使命がある。活動資金をどうするかは追々考えればいい。貯金でしばらくはもつ。
今は動け。悪を切り裂け。
というわけで、俺は予定通り全国各地を巡り、歩きスマホや歩きタバコを粛清して回った。
当然、この出来事はすぐにニュースとなり、本格的な捜査も始まるが、犯人である俺が見つかるはずがない。
証拠も凶器もない、方法も分からない。
また、監視カメラ対策として、場所を変えるごとに服装や髪型を大きく変えるなどの変装もした。
もはや犯人が存在するかどうかすら分からないだろう。
ネット上では早くも『人間を粛清するために神が降臨した』とかいう記事を見かけるようになった。
悪くない気分だが、『神にしてはやることがショボい』という意見も目に付いた。
悔しいが、この能力も無敵というわけではない。
俺が念じなければ能力は発動しないわけだから、不意打ちには対処できないし、300mの射程外から狙撃されれば為す術がない。
事は慎重に運ばなければ。
とはいえ、いつまでも小者を相手にはしていられない。
そう思っていた矢先、向こうから絶好の獲物が舞い込んできた。
国会議員の総選挙だ。
あのやかましい選挙カーが全国各地を走り回る。
どうしてそんなひどいことができるんだ?
夜勤で寝ている人がいるし、病気で寝ている人だっている。仕事や勉強に集中したい人もいるだろう。
自分の名を売るために人の迷惑も考えないなんて、それじゃあ暴走族と同じじゃないか。
だが、選挙カーの運転手を狙っても意味がない。彼らはただの後援者だ。この馬鹿騒ぎの元凶ではない。
かといって立候補者を切り刻むのも違う気がする。
悪いのは慣習だ。
この馬鹿騒ぎを行わなければ選挙に勝てないという馬鹿げた慣習を潰さなければならない。
よって、今回狙うのは人ではなく選挙カーだ。
あの騒音マシンを破壊する。
もちろん、周囲の車や歩行者を巻き込んでは大変なので、車体を切り刻んだりはしない。
壊すのはスピーカーとマイクだけだ。
いや、さすがにそれではぬる過ぎるか。
やはり、慣習をやめようともしない立候補者には少し痛い目にあってもらおう。
そうだな、今回切り落とすのは……
舌だな。
どうせ二枚も三枚も持ってんだから、一枚くらいなくなってもどうってことないだろ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます