第312話 取り調べ
「おい、聞いているのか!先ほどから何をぶつぶつと言っている。」
兵士に捕らえられた二人は現在、取り調べを受けていた。しかしながらいつまで経ってもこの現実を受け入れることが出来ないのか、伯爵はぶつぶつと何かをしゃべっているだけだった。
「おい、飯を抜かれたいのか!」
「はっ、一体ここはどこだ!」
流石にこの状況で食事を抜かれてしまえば生命の危機に直面すると本能的に察したのだろう。伯爵も取調官の話に耳を貸すのであった。
「だから、先ほどから言っているだろう。お前たちはあの薬をどこから手に入れたんだ、入手先があるんだろうが。」
「ふん、そんなこと、どうしてお前に教えてやらねばならん。どうせこのまま極刑になるか一生牢の中の人生だ。それなら少しでもお前たちが苦しむ顔を見てやる方が気持ちが良いわ。」
取調官は伯爵に対して全能薬の入手経路をしゃべるように尋問するも彼は頑なに答えようとしなかった。別に入手経路を話すのは何も問題はないが伯爵からすれば何もメリットがないのだ。だからこそ彼はそれならばと目の前にいる取調官をわざと困らせるために話しをそらすのだった。
そんな中、取調官は伯爵の心を揺さぶる発言をするのだった。
「そうか、そう言えばな現在、お前と一緒に捕まった治療院の院長も同時進行で尋問を行っているんだ。陛下からどうしても話をしないのであれば先に質問に答えたものは極刑に処すのは勘弁してやろうと言われているがお前が答えないのであれば生き残るのはあの院長になりそうだな。
まぁ、私としては別にお前たちのどちらが生き残ろうが関係はないがな。お前のような人間は生きていないほうが良いかもしれんし。」
もちろん、これは取調官の真っ赤な嘘だ。既に彼らは極刑に処されるのではなく、一生檻の中で過ごすことは確定しているがどうしても真相を調査したい取調官がとっさに機転を利かせたアイデアだった。
「さて、しばらく休憩だ。まぁ、せいぜい考えるんだな。」
それからしばらく経ち休憩が終わると取調官が再び伯爵の元へと帰ってきた。
「それで、考えたのか?」
「ふん、何を言われようがお前たちに話すことなどない。どうせ先ほどのこともお前が口から出まかせを言っただけだろうが。」
どうやら伯爵は先ほど発言を嘘だと見破っているようで先ほどと同様、頑なに話をしようとしない。
そんな中、突然、取調室に一人の人間が入ってくる。その人間は取調官に耳打ちをするとすぐに出て行ってしまったのだ。そして、耳打ちをされた取調官はニヤリと笑みを浮かべることになる。
「残念だったな、先ほど、院長がすべて話してくれたという報告を受けたよ。お前は用済みだ、まさかただの治療院の院長が生き残って元伯爵のお前が刑に処されるとはな。」
こうして取調官が取調室から退出しようとした瞬間だった。
「まっ、待ってくれ。この私があの院長の身代わりで死ぬだと、そんなこと許されるわけがない!私はあいつが知らないことも何もかも知っている、だから俺も生き残らせてくれ。」
取調室の思惑通り、自分の代わりに院長が助かることが許せなかった伯爵は何もかもをしゃべると約束するのであった。
「そうか、まぁ、知らない情報をお前が話すのであれば上に話を通してやらんでもないが。まずは話を聞いてみないと分からないな。どれが知らない情報か判断がつかないと思うからおまえが知っていることをすべて話すんだぞ。」
こうして、取調官の思惑通りに伯爵はすべてを話し始めるのだった。ちなみに、この話から全能薬をこの国に持ち込んだ人間が発覚し、潜伏している所を捕らえられ、伯爵たちと同様の刑に服するのだった。
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