第286話 治療院

ここはとある領地にある治療院、ここでは先日、最近増加している暴力的な症状の患者の治療に成功したと大々的に発表され、国中から家族のそう言った症状に悩まされている者たちが押し寄せてきていた。


「先生、この人をどうかお願いします、もう先生しか頼れる人はいないんです。他の医者に主人を見せても原因が分からないって匙を投げられるばかりなんです。


先生の所で主人と似たような患者さんの治療を実際に成功させたという話を聞きました。それは本当なんですか?」


患者の家族であろう女性にそう尋ねられると目の前の医師は何も心配することはないと微笑みながら心配を取り除くように答える。


「はい、事実です。ご主人は我々が必ずもとに戻します。ですから奥さんは私たちのことを信じて指示に従ってください、良いですね。」


「はい、もちろんです。ありがとうございます、ありがとうございます。」


今まで何人もの医者に見せても手の打ちようがないとさじを投げられてきた夫であったが治療が可能だと言うこの医者の言葉を聞き、妻は感極まって何度も、何度もお礼を告げる。


「それでは、最初のお願いです。この症状の治療にはかなりの時間とご主人の胆力が必要となります。そのため、ご主人のことが心配なのはわかりますがどうか面会などは行わないようにしてください。奥さんの顔を見てしまえば気が緩んでしまい、治療は振り出しに戻ってしまいます。


長期間、ご主人と別れることはつらいことだとは思いますがこれもすべてご主人の為なんです。ご主人の治療が完了すれば我々の方から声をかけさせていただきますから、どうかそれまでは心の中でご主人を応援するくらいにとどめておいてください。


あぁ、そうだ、近くに実際に治療を成功させ、退院した方もいるのでその方に色々と話を聞いてみてはいかがですか?奥さんと似たような境遇の方に対して入院中の経験とかを話してくださっているんです。それを聞けば何が一番ご主人の為になるのかが分かると思いますよ。」


医者が伝えたのは今までこの治療院を退院し、暴力的な行動が嘘のように消えてしまった患者たちのことだ。彼らは自身の経験を多くの人間に知ってもらいたいと定期的に話をしているようで彼女にもそこに行ってみれば今の旦那にどう言ったことが必要なのかが理解できるということだった。


「分かりました、先生がそうおっしゃるのであればその方に話を伺ってみたいと思います。先生、どうか、どうか主人のことをお願いいたします。」


「はい、お任せください。」


彼女はそう頭を下げると期待に胸を膨らませ治療院を去っていくのだった。先ほどまで話していた医師がニヤニヤと悪い笑みを浮かべているとは知らずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る