第251話 新たなる依頼の始まり
「いらっしゃい、クレハ。待っていたわ。」
帝国からの賠償も何事もなく契約が完了し、いつもの日常に戻っているとクレハは王妃から頼みたいことがあると言われ、王城へと赴いていたのだ。
ちなみに、クレハがノイマンの元に再度向かい聞いた情報によればリーシア教の上層部は帝国に対する賠償金のせいで教団自体は解体されないらしいがかなり経営状態は悪化しているようで信者から無理やりお金を集めるか、怪しい商売をするくらいでないと教団が無くなるのも時間の問題らしい。
上層部が今までのような裕福な生活を捨てれば何も問題はないのだが生活水準を一度上げてしまえば下げるのは難しいのだろう。だからこそ、上層部にその考えはないらしい。
もっとも、そのような方法でしかお金を集めることが出来ない時点で未来はないのかもしれないが。
「王妃様、お久しぶりです。今日は私にお願いしたいことがあるとかで。」
「そうなのよ、実は、近々国王の生誕祭が王都にて行われるの。それでね、今年の生誕祭はこの国が誕生してから500年目ということもあって特別なものにしたいと考えているのよ。
そこで、今年の生誕祭の記念になるものをクレハに考えて欲しいと思ってね、出来ればだれでも手に入れることが出来る食べ物とかが良いと思っているのだけれど、お願いできないかしら?」
国が誕生してから500年という節目であるという理由から盛大に国王の生誕祭を祝おうと発言しているが国王の生誕祭の話をしている王妃の顔を見れば単純に夫の誕生日を祝ってあげたいという気持ちが溢れている。
そんな彼女の顔を見てしまえば断わるなんて選択肢など存在するはずがない。もっとも、今回の提案はクレハも面白そうと思ったため、断る気などないのだが。
「分かりました。その提案、心してお受けいたします。誰でも手に入れることが出来るような安価な食べ物を何か考えればいいですか?」
「そうね、後は国民がみんなで食べて国王の生誕祭をお祝いできればいいと思っているから作るのも簡単なものが良いわ。」
クレハは安いものと聞き、いくつか選択肢を考えていたものの王妃から簡単に作れるものが良いと言われ、ただ単に安ければ良いのではないことを理解したのだ。さらに、国王の生誕祭に国中で出される食べ物とあれば貴族に食される可能性があるのではないかと思い立ってしまう。
「確かに、国のイベントとあれば用意する量も計り知れないですね。ん?もしかしてそれって貴族の中にも食べたりする人はいますか?それって一気にハードルが上がるような気がするんですが。」
そんな疑問をクレハが尋ねると王妃は少しだけ冷や汗を流しながら目を背け始める。そんなあからさまな反応を見せた王妃に嫌な予感がしたクレハは精一杯の笑顔を見せながら王妃に尋ねるのだった。
「王妃様、何か隠し事をしているなんてことはないですよね?」
「う、うん、そんなことはないわよ。しいて言うなら国外の王侯貴族も今年は集まるからその人たちも食べて大丈夫なものにしてくれるといいなって言おうとしただけよ。」
「ちょ、なんですかそれ、そんなの聞いてませんよ。他国の貴族や王族まで来るんですか。そんな人たちが食べるものを国民のだれでも食べれる価格で作ることがどれだけ難しいことだと思っているんですか。
申し訳ないですけどさすがにそれは私も無理です、先ほど引き受けておいてなんですが、このお話はやっぱり断らせてください。王宮にいる料理人の方が詳しいと思いますよ。」
流石に他国の王族が食すものを国民が誰でも食べられるようにするというミッションはクレハも不可能と考えたようで今回の話を断わろうとするといきなり王妃がクレハに泣きつく。
「クレハ、お願いよ断らないで頂戴!既に他国の王族に今年は盛大に行うって言っちゃったのよ。王族が食べられるものを国民が誰でも食べられるようにするっていうことも。だからクレハが引き受けてくれなかったら笑いものになっちゃうの!」
「何でそんなことを言ったんですか、どう考えても無理なのは分かりますよね。」
「だ、だって、そこでできないなんて言えば他国になめられて大変なのよ。無理なのは分かっていてもできないって言えないのが王族なの。お願い、私にできることならお礼はいくらでもするから引き受けてくれないかしら。
このまま言ったことが嘘だってなったら末代まで笑われてしまうわ。これは国の危機よ、あの人の誕生祭で恥をかかせるわけにはいかないわ!」
今まで王妃と関わってきたがここまで泣きつかれたことなどなく、本当に困っていることがひしひしと伝わってくる。流石にこのまま見捨てるのはかわいそうだと考えたクレハは仕方なく依頼を引き受けるのだった。
「はぁ、分かりました。王族であれば対面というのも気にする必要がありますし、仕方がないです。でも、本当に大変な事なんですからね、うまくいったあかつきにはお礼をいっぱい貰いますからね!」
「本当!ありがとうクレハ、本当に助かったわ!」
かくして、クレハは王妃の依頼を果たすために考えを巡らせるのだった。
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