第223話 とある老人
徐々にコーヒーの購入者が増えてきている中、クレハ商会に今日もコーヒーを求めてとある老人が訪れることになる。
「失礼、実はこのお店にコーヒーがあると伺ったのですが、こちらがそうですか?」
「はい、そうですね。豆のまま販売することもできますし、こちらで豆を挽いて粉の状態で渡すこともできますがどうしましょうか?」
「お金は支払いますので試飲させてもらえないでしょうか?私の欲しいものか確認をしたいので。」
老人は自身の求めているコーヒーがクレハ商会で販売されているものなのか、確認したいようで試飲を申し出てきた。そのため、従業員は快く、その申し出を受け入れるのであった。
「かしこまりました、お代は大丈夫ですよ。試飲ですのですぐにお出しいたします、気に入っていただければご購入してください!」
老人は従業員から受け取ったコーヒーを一口、口に含むと思わず顔をしかめてしまった。そんな彼の表情に従業員はてっきり彼には合わないのかと考えていた。
コーヒーの人気に火がついてから彼の様にコーヒーの試飲を申し出てきたものは何人かいた。しかしながら中には苦いのが苦手な人間もいたようでそう言った人間にはこの飲み物は合わなかったのだ。
「あの、もしかしてお口に合いませんでしたか?」
「あぁ、いえ、そうではないのです、大変美味しいコーヒーでした。ぜひ買わせていただきます。ところで、このコーヒーはここまで美味しいのであれば大変高級なものなのではないでしょうか?この値段で販売を行って大丈夫なのでしょうか?」
この老人、実はコーヒーは今までにも飲んだことはあった。しかしながらその時に飲んだコーヒーなどとは比べ物にならないくらい美味しいものであったため、思わず顔をしかめてしまい、その安さに驚いていたのだ。
「えっと、高級ですか?確かに商会長からはここにあるコーヒーよりもさらに質の良いコーヒーを手に入れたとは聞いていますが、これは質としては普通のものらしいですよ。ですので、どなたにでも買える価格で提供しています。」
「な、なに!このコーヒーが高級品でも何でもないというのですか!あぁ、そう言うことですか。ここの商会は大変優れた商会と聞いています。この商会の一般グレードというのは他の店では高級なグレードということなのですね。」
老人は従業員の発言に思わず声を荒らげてしまった。彼が知っているコーヒーは今飲んだものよりも数段劣っているものだったからだ。
しかし、ここはうわさが絶えないクレハ商会なのだ。彼はこの店の当り前が他の店では当たり前ではないだけだと納得したのだ。しかし、それは大きな間違えだった。
「い、いえ、商会長からうかがった話では本当に一般的なものらしいですよ。」
「なっ、そ、それでは私が今まで飲んでいたあの酷い味のコーヒーはいったい。」
老人は自分の飲んでいたものが一般的なものですら叶わないひどい味であったコーヒーと知り、ひどく困惑しているようだった。
「と、とにかく、この商品は購入させていただく。私は急ぎの用が出来ましたのでこれで失礼させていただきます。」
こうして、謎の老人は颯爽と消え去ってしまうのであった。
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