八章 新大陸

第189話 新たな船出

「いや、本当に助かりましたじゃ。これもすべてクレハ様のおかげです。」


ここは入港局、あの日、責任者である老婆と話をつけ、クレハはレモンをここに卸すことになっていた。それからの老婆の対応は早かった。クレハの言葉を疑うこともなく、すぐさま船乗りの呪いの話を広め、どの船にもレモンなしでの航海は禁止させたのだ。


だが、その決断により、船乗りの呪いによる死亡者数や罹患者は瞬く間に影を潜めていったのだ。


「何を言っているんですか、あなたが私の話を信用してくれて、この話を皆さんに広めてくれたからですよ。私がこの話をしたところで、信用がなかったですからね。こちらこそ、私を信じてくれてありがとうございます。」


クレハは何よりも急に現れた自分の話を疑わずに、対応してくれた彼女に感謝していたのだ。少なくとも、そのような前例のないことを言われてしまえば人は誰でも疑ってしまうものである。


「いえ、いえ。あなたの目を見れば嘘を言っているのか、言っていないのかくらい分かりますじゃ。おぁ、そう言えば、あの時はすぐにでも話を広めないといけないと焦っていたので自己紹介すらできていませんでしたな。ワシの名前はアジーノと申します。」


「あっ、確かにそう言えばお名前をお聞きしていませんでしたね。私はこの港町の領土の権利を帝国から頂いたクレハと申します。以前の街よりも住みやすい街にしていきたいと思いますのでアジーノさんもご協力いただければ嬉しいです。」


「もちろんですじゃ、クレハ様には返しきれない恩がありますから、いつでも困った時はワシに相談してくださいじゃ。それよりも、今日はどうされたのですか?まさか、船乗りたちの様子を見に来たなどではございませんよね?」


アジーノには何故、クレハがこの入港局を訪ねてきたのか分からないでいたのだ。


「あぁ、そう言えばそうでしたね。最近では船旅も船乗りの呪いが亡くなったおかげで安全なものになったような気がするんですが、実際のところどうですか?」


「ん~、そうですな。もちろん、危険が全くないというわけではありませんが、前に比べれば危険性はほとんどなくなったと言っても過言ではありませんね。」


「そうなんですね、それは良かったです。それでは、一つお願いがあるのですが、良いでしょうか?」


「ええ、もちろんですじゃ。クレハ様のお願いであれば最優先で受けさせていただきます。」


「いえ、流石にそれは悪いですから順番でいいですよ。別に急いでいることではないので。それでですね、お願いとは大陸を横断したいので船を出してほしいんですよ。」


そう、クレハのお願いとはこの大陸以外の大陸に向かうことだったのだ。

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