三章 諸国会議
第30話 クレハの宿、営業開始
クレハの宿がスタートした。宿屋とはこの街に家がない者たちが使用するためのもので、その客層は主にこの街を訪れる商人たちだった。彼らは当初、いくら奇抜な商品を売り出してきたクレハ商会といえども、宿屋ではほかと変わらないだろうと考えていた。その上、クレハの宿はほかの宿屋に比べ特に安いわけでもないので、たいていの商人は安い宿屋か、いつも自分たちが使っている宿屋に宿泊する。
しかし、そんな中である商人がいつも泊まっている宿がいっぱいのため、試しにクレハの宿を利用してみようと考えた。彼は長い旅でくたくたに疲れていたため、すぐにベッドに倒れこんだ。そんな彼が気づけば驚くべきことに翌朝になっていた。
彼はあまりのことに驚いていた。いくら疲れているとしても、ご飯や湯あみもせずに寝てしまうなど起こったことがなかったからだ。
彼がその原因を考えていると自分の腰かけているベッドがとても気持ちよかった。大抵は藁の上にシーツをかけているだけだが、ここのは、動物の毛のようだった。ここのベッドはほかの宿屋のベッドに比べ弾力があった。
彼はこのベッドの気持ちよさを忘れることができず、しばらく堪能するのだった。
街では宿泊した商人が流したのか、信じられないくらい快適なベッドがクレハの宿にはあると話題になっていた。本来であればこの街の住人が宿に泊まるということはありえないが、その噂の話題性に負けてしまい、住人たちですらクレハの宿に宿泊しに来る。
そんな街の様子を見てルークはどうしてクレハの宿のベッドが快適なのか分からず、クレハに尋ねる。
「オーナー、そろそろ教えてくださいよ。どうしてここまで、うちのベッドは快適なんですか。ほかの所と比べると確かに藁とは違って動物の毛ですがそこまで変わるのでしょうか」
「ルークこれは馬の毛なんですよ。馬の毛にはとても弾力があるうえ、通気性も抜群なので夏でも快適なんですよ。ほかの動物の毛や材料ではこうはいきませんよ」
「そうだったんですね、でもどうして、ほかの宿はやっていないんですか?これならほかにもやりそうな人がいてもおかしくないと思いますけど?」
「そうですね、やっぱり馬は移動するために乗ったりとか、馬車を引くための動物だという前提条件があるので思いつかなかったんじゃないかしら」
そんな話を二人でしながらクレハの宿は新しく雇った従業員に任せ、二人は本業の商会の建物で販売を行うのだった。
後に、このクレハの宿で大きな騒動が巻き起こる。
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