二章 中小商店・商業組合
第13話 報われない職人
今日もクレハ商会は大繁盛で午後にはすべての商品が完売した。いつもは明日の商品の準備のために午後の時間をすべて使うが今日はいつもより早く準備が終わった。そのため、クレハは久しぶりに趣味である食べ歩きをするために屋台通りに向かっていた。
彼女が屋台通り向かっていると一軒のパン屋が目に入った。クレハはあまりパンが好きではない、正確にはこちらの世界のパンが好きではないのだ。こちらの世界では酵母の概念がなくパンは膨らんでいない。そのため、硬くてあまりおいしくないパンしかない。
しかしながら、この世界の人々にとっては、これがパンであり主食でもあるのでパン屋には数人のお客が出入りしていた。
クレハはパン屋のことは気にせず、目当ての屋台通りに向かおうとしたがパン屋から怒鳴り声と共に一人の男が追い出されてきた。
「ルーク、何度言ったらお前は仕事を覚えるんだ。もういい、お前はクビだ。出ていけ、二度と顔を見せるんじゃねぇ!」
クレハはパン屋の騒動を気にせず屋台通りに向かおうとしていたが、その光景を見た瞬間シルドラ家での昔を思い出した。彼が怒鳴られている光景を見て昔の自分と重なってしまったのだ。
彼女は食べ歩きができなくなったことにため息をつきながら、先ほどパン屋を追い出された青年に話しかけた。
「はぁ、仕方ありませんわ。今日の食べ歩きはあきらめましょう。ルークさん?でしたか?大丈夫ですか?」
「えっ、はい。僕は大丈夫です。ありがとうございます、あの、あなたは?」
「私はクレハといいます。先ほどクビを言い渡されていましたが何をしでかしたのですか?」
「実はパンを美味しくしようと自分なりの方法でパンを作ろうとしたのですが、店長さんに決められた作り方以外するなと言われ、それでクビに。でも、僕はパンがもっとおいしくなると考えているんです!そのためには、今の方法にこだわらず色んな方法を試さないとだめだと思うんです」
クレハは初め、同情から彼に話しかけたが、彼が予想以上にパンに対して情熱を持っているため、前から考えていた方法を試そうと彼を商会に招き入れるのだった。
「あなた、パンをフワフワにできると言ったら信じますか?」
「パンをフワフワにですか?そんなことできるんですか?」
「ええ、できるはずですよ。でもそれには、いくつか試作品を作って完成度を上げる必要がありますが」
「あの、僕にパンの試作をさせてください。お願いします。昔からずっとパンを美味しくできるんじゃないかって思ってたんです。だからこのチャンスを逃したくないんです」
「そうですか、それはちょうどよかったです。私はクレハ商会という商会を経営しているのですが、そちらで新商品のフワフワなパンを作ってみませんか?」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。オーナー!」
クレハ商会に初めての従業員が加わった瞬間である。
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