おっさんとホットドッグカーによる異世界征服記

@manat2

1章 街道編

第1話 ホットドッグ販売車

 ある休日のこと。

 暇つぶしに近所でやっているキャンピングカーショーを見に行った時、会場の片隅に小さなホットドッグ販売車が置かれていることに気づいた。

 よく田舎の草むらに置き捨てられてるような古いタイプの軽ワゴン車だ。

 あまり手入れされてないのか、車体のミントグリーンの色がくすんでずいぶんとくたびれていた。最新型のキャンピングカーばかりが置かれている中で、その車だけが明らかに場違いで浮いて見えた。


 興味を覚えた俺は、ドアを開いて運転席に座ってみた。

 すると座った瞬間に窓の外の様子は一転して真っ白にかわり、まるで崖から落下したみたいなひやっとする感覚を覚えた。その状態はしばらく続いて、いつしか俺は失神していた。


 目が覚めた時、俺はホットドッグ販売車の運転席に座ったまま、まるで見覚えのないどこかの野原にいたのだ。


「ひっかかりましたね。トモノリさん」


 後つけのカーステレオのスピーカーから、少し音が割れた機械的な声が聞こえて来た。


「誰だ?」


「私は異世界転移をつかさどるホットドッグ販売車の精霊です」


 どんな精霊だよと思った。それはいいとして、どうやら俺はホットドッグ販売車と共にどこか違う世界に来てしまったようである。


 一応ルームミラーで自分の顔を確認してみる。

 若くなってるなんてこともなく、35歳の派遣社員そのままのさえない俺の姿だった。

 普段からバッグを持ち歩かないので、持ち物は腕時計と家の鍵くらいしかなかった。スマホなんて上等なものは元々持ってない。


「元の世界には戻れるのか?」


「今は無理です」


「なんで?」


「なぜでも」


「せめてチートとかは?」


「この車を与えました」


「これだけ?」


「ホットドッグを自動で生成できます。さらにジンジャエールも。あと水も無限に出ます」


「何の意味が……」


「この車はホットドッグを材料無しで生成できるのです。ここの世界は単純なので、とにかく食べさせてくれる者がモテますよ」


「そうなの?」


「はい」


 まず一番大事なのは食えること。これを労せずクリア出来るのはたしかに大きい。

そしてモテるとか……。これはめちゃくちゃ魅力があった。何しろ俺は35にもなって、いまだに素人童貞だからな。


「さらに住にも困りません」


「住?」


「車に住めばの話ですが」


 狭すぎじゃないかと思ったが屋根があるだけマシか。運転席のシートは助手席とつながっているベンチシートだが、車が小さくて横幅がないので座った姿勢でないと寝れないが危険な野宿よりはいいかも知れない。


「どうやってこの車は動くんだ? ガソリンとかあるの?」


「車は魔力で動きます。魔石をステアリングの中央にある穴に吸い込ませれば、魔力メーターが増えてエンジンが回ります。魔石は魔物を狩って取るか、町で買うとかしてください」


「ちょっと待ってくれ。どういう原理なんだ?」


「ドワーフが作りました」


「もうちょっと具体的に説明してくれ」


「だから魔力で動くと」


「それだけじゃ納得できん」


「……。ではガソリンで動くように今から改装します。しかし、この世界にガソリンは存在しません」


「すいませんでした。魔力で動くでいいです」


「……」


「タイヤはどうなってるんだ? もしパンクしたら……」


「タイヤは決してパンクしません」


「どうして?」


「ドワーフが作った特別なタイヤだから」


「どういう理屈なんだ? 空気は入ってるのか? ドワーフと言えばなんでも解決すると思っていないか?」


「……。ではパンクするタイヤに替えます。スペアタイヤはありません」


「ごめんなさい。言いすぎました。ドワーフが作ったパンクしないタイヤがいいです」


 俺は車に向かってさらに問いかけた。


「現地の人に言葉は通じるの?」


「はい。そこは問題ありません」


 なぜなのかはたずねない。たぶんドワーフの力だとか何とか返ってくるだけだろう。


「この世界にはお金はあるのか?」


「むろんあります。この世界の文明は中世初期レベルですが、ドワーフが残した技術によりお金だけは異常に精巧に作られています」


「町は近くにある?」


「大きな町は結構遠くまで行かなければありませんが、近くに村はいくつか存在します」


「そうか……」


 いきなり、知らない町や村に出かけて行っても怪しいよそ者扱いされて終わりだろう。田舎の閉鎖性をなめてはいけない。

 ましてや中世初期レベルの世界だ。宗教なんかも原始的で未成熟だろうし人種差別なんかもあるかもしれない。

 しばらくの間は町や村には近づかずに野外で暮らして、旅人を相手に細々と商売しながら情報を集めようかと思った。とりあえずの食と住には困らないわけだしな。


「ホットドッグや水を出すのにも魔石はいるのか?」


「それらの生成には魔力を消費しませんが、燃料計に魔力がない状態だと生成できません」


「なるほど……。それと、魔物がいると言ってたよな?」


「はい」


「寝てる間に魔物に襲われたりしないのか?」


「燃料計に魔力がある状態だと、この車の周囲には自然に結界が張られます。その結界の中には魔物は入ることが出来ません。またホットドッグ生成と同じく、結界には魔力は消費しません」


「結界の大きさは?」


「車の周囲をすっぽり覆うように円形に結界が張られているはずです。結界の正確なサイズは私にも分かりませんが」


つまり結界の大きさは実際に魔物が来ないと分からないと。しかし車の中だけは確実に安全なようだ。


「ただし、この結界は魔物か魔法攻撃以外は防げません。魔力を持たない人間や動物の侵入、弓矢などの物理攻撃は防げませんので注意してください」


 ふむふむ。そう完全ではないわけか。狼とかなら車に乗ればかわせるだろうが、山賊なんかが来たら困るな。その場合は走って逃げたほうが良さそうだ。



 まずは車自体の機構をチェックしてみる。オートマチック車ではなくマニュアル車である。エンジンがどこにあるのが探したら、後ろに付いていた。つまり駆動形式はRRということだ。

 次は実際に車を動かしてみることにする。いちおう魔力メーターは満タンになっている。しばらく辺りを走り回ってみた。メーターの減り具合は体感で実際の車と同じくらいだ。


 バックドアを上に開くと、開口部分ににホットドッグ販売のための窓口が付いている。車の荷室部には水が無限に出てくる蛇口が一つ付いたシンクと、ホットドッグが自動生成される機械と、ジンジャエール用のサーバーが置かれてある。

 室内は狭い上に大きな機械が3つもあるので、俺が入ると余分なスペースが全くない状態だ。屋根も低いので中腰でないと作業出来ない。


 試しにホットドッグをいくつか作ってみた。だいたい4分ごとに1個、1時間に15個作れることが分かった。

 作れるホットドッグは1種類のみ。パンにソーセージとカレー味のキャベツが挟まれてマスタードとケチャップで味付けしたスタンダードなものだ。食べてみたらけっこう美味かった。一つ食べると止まらなくなって結局6個も食べてしまった。


 ホットドッグは完全に自動で生成されるわけだが、クローンのように全く同じものが出来るというわけではなく、ウインナーの形や焼き具合、ケチャップの量なんかも一つ一つ微妙に違っていた。

 そしてジンジャエールのほうはと言うと、一つにつき1分弱で生成できる。コップは安っぽい陶器のものが30個ほど置いてある。当面はそれらを洗って使うことになるだろう。水は蛇口から無限に出るらしいが、勢いはあまりなさそうだった。


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