第16話 システム障害:2022年9月

(T商事のレガシー・システムに障害が発生した)


2022年9月。東京。T商事オフィス。システム部。


「ネットワークがつながりません。このままでは、銀行との決済ができません」システム担当職員が、青い顔をして、言った。

「それは、こちらの問題か、それとも銀行のシステムの問題か、どちらなんだ」金山部長が叫んだ。

「はっきりしませんが、今のところ分担しているシステムのコードのサイズを考えれば、8割はうちのシステムの問題と思われます」

「それで、回復の目途は立っているのか」

「一度、システムを完全にシャットダウンして、再起動して、バグをチェックしないと何とも言えません」

「これは、厄介なことになりそうだ」と金山部長は思った。

2018年に経済産業省は、「2025年に、COBOLのレガシー・システムの維持管理ができなくなる『2025年の崖』が存在する」と警告したが、実態はそれよりかなり前に、レガシー・システムは破綻していた。T商事も、このことには、気づいていたが、A銀行とのネットワーク接続の問題もあり、簡単には、レガシー・システムを清算できないでいた。そのうちに、システムの維持管理がままならなくなった。

T商事のシステムは2階建てである。1階は、国内システムで、系列のA銀行と同じCOBOLを使ったレガシー・システムである。2階は、海外システムで、クラウドサーバーを使ったPC系のネットワーク・システムである。

ダマスカス対策には、全システムをクラウド・システムにシステム統合するしか方法がない。これはわかり切ったことだ。しかし、T商事には、レガシー・システムの維持管理をする専門部署がある。この部署を清算すると言えば、反対されるのは目に見えていた。そもそも、クラウドサービスを使えば、クラウドサービス提供会社が、コンピュータのメンテナンスをしてくれるので、社内に保守要員はほとんどいらない。必要な人員は、クラウドサービス提供会社との連絡係だけで済む。一方、レガシー・システムは、性能が悪いだけでなく、メインフレーム・コンピュータの借料、保守要員の人件費など、とんでもない費用のかかるシステムである。

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