第14話 ティーブレークの後 :2022年8月

(ティーブレークの後で、政治プロセス分析チームの基本概念が明かされる)


2022年8月。東京。G社オフィス。


洋子がミィーティングを再開した。

「皆さん、席に着きましたか。

それでは、概念の説明を掻い摘んで行います。

多数決原理というのは、全てを平均値か中央値で代表するような荒っぽい方法です。現在のデータサイエンスを使えば、分布やバラつきのあるデータは、無理に1つの値に集約せずに、分布のあるデータとして扱うことが可能です。

たとえば、犬を例にすれば、チワワの体重は2㎏です。セントバーナードの体重は、70㎏です。この平均をとって、犬の体重は、36㎏であるといってもナンセンスです。犬は、体重の違いだけでなく、毛の長さが違ったり、吠え声の大きさが違ったりします。こうした評価軸を明確に意識して、分布を調べれば、各データは多次元空間の点になります。データをこの形式で表現できれば、データサイエンスの手法をつかって、いろいろな処理が可能です。おすすめリストも簡単に作ることができます。問題は、多次元空間の軸の取り方です。

以下は、私の頭の中にあるたたき台です。一応、軸という名称で呼んでいますが、各軸は、1次元という訳ではありません。2次元、または、3次元の空間をイメージしてもらってかまいません。

第1は、ローカル軸です。これは、地方、地域による課題の違いです。大都市と地方では、抱えている問題が違います。また、東京都のような大都市でも、都心部と周辺では、抱えている問題が違います。

第2は、実施プロセス軸です。政治課題で一番重要なことは、施策を実行することではありません。しっかりした設計図を書くことです。例えば、サグラダ・ファミリアは、非常に大きな建築ですが、ガウディの設計図の指示に従って、100年も建築が続いています。逆に、毎回、それなりの小さな施策を行うことは、シーシュポスの神話のようなもので、時間とコストの無駄使いを繰り返し、結局は社会を変えることができません。今の政治にどんな設計図があるかと考えれば、問題が多いことがわかります。更に、大きな政治課題の解決には、階段を登るように、大課題を一度に実行出来る小課題に分解することが必要です。

第3は、意見集約軸です。これは、マイノリティの意見も切り捨てないで集約すること、似通った意見を、ひとつにまとめることが含まれます。実は、抱えている課題や、意見が、同じか、異なるかを判断するのは、容易ではありません。同じ内容を表す単語が複数あることも多いですし、逆に、同じ単語が異なった意味で用いられる場合もあります。これには、AIを使うこと、有権者と相互情報交換をして、意見内容を確認するようなシステムが有効と思われます。

ここまでのところで、質問がありますか」

洋子は、一同を見渡した。

「直ぐに、質問が出ないようですから、今日は、ここまでにしましょう。質問に気が付いたら、クラウドにアップしてください。答を書きます。また、意見のある人は、次回までに、簡単なメモにまとめて、クラウドにアップしてください。『チームの意見をどのように集約すべきか』という課題の答えは、第3の意見集約軸に対する答にもなりますから、次回は、その辺りから、ミーティングを始めることにしましょう」

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