第2話 フランス独立党の方針変更:2022年4月

(フランス独立党が政策の方針転換を行う)


2022年4月。フランス。パリ。フランス独立党オフィス。


洋子との打ち合わせの1か月前、ジャクリーヌは、前回の選挙結果を見て、考え込んでいた。

「このままでは、だめだわ。何か、新しい手を打たないと」

ジャクリーヌ・ルパンは、45歳、栗色の髪の毛をした、細面の女性で、フランス独立党の党首だった。

フランス独立党は、ジャクリーヌの父親が立ち上げた政党で、長い間、父親の個人政党と言える状態だった。父親は、7年前に交通事故で亡くなったので、ジャクリーヌは、断わり切れずに、政党を引きついで、党首についていた。当初、ジャクリーヌは、個人政党が、立ち行かなくなれば、そこで、政党をたためばいいだけだと考えていた。ところが、2016年のブレグジットの影響で、フランス国内でも、EU脱退を求める声が強まり、フランス独立党は個人政党から、第2勢力の政党にまで躍進した。しかし、その後がまずかった。ブレグジットが、イギリス経済に与えるマイナスの効果が認識されるにつれて、支持率の低下に歯止めがかからなくなっていた。

フランスの実権を握っているのは、フランス革命の後で経済的に成功したブルジョアジーである。このブルジョアジーのコアは200家系あると言われ、200家系に生まれれば、一生遊んで暮らせた。ブルジョアジーの生活は、フランソワーズ・サガンの小説で垣間見ることが出来る。一方、200家系に生まれなかった人間は、一生働いても、生活は楽にならなかった。フランスでは、労働者階級と資本家階級は固定されていた。黄色いベスト運動は、労働者階級の資本家階級に対する不信感の表れだった。

「フランス独立党が、もう一度支持率を回復するには、黄色いベスト層に、フィットした政党に生まれ変わるしかないのだわ」とジャクリーヌは思った。

「それには、どうしたらいいのかしら。

まずは、黄色いベスト層の話を聞かなければ、始まらないと思う。でも、話を聞いても、出来ることは限られている。何もできなれば、支持者は離れていく。

一方、黄色いベスト層の発言は、過激に走りやすい。しかも、発言は、断片的で、意味がよくわからないことも多い。だからといって、わかりやすく話してくださいとか、要約して話してくださいと言えば、私たちは、高等教育を受けていないのだ、そんなことが出来る訳がないと反発されるのが落ちだ。

黄色いベスト層の支持を得るには、まずは、心の中の思いのたけを吐き出してもらうしかないだろう。しかし、半分は支離滅裂なその言葉の洪水の中から、意味のある実行可能な政策を抽出して実施できなければ、支持は継続しないだろう。

こんな抽出作業を1週間も続ければ、頭が壊れてしまうだろう。とてもではないが、こんな難題に対応出来るのは、人間技はない」

ジャクリーヌは溜息をついた。

「人間技?」

ジャクリーヌはふと思った。

「そうか、機械でできれば、問題は解決出来るのだわ」

こうして、ジャクリーヌが検索した結果、この目的に対して、一番有望なシステムとして、G社の言語要約システムが選ばれたのである。

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