カノコイ~プロジェクトローレンシア・イエローブックリポートVOL49~戦略創造軍特記事項
水原麻以
広報担当者ローレンシアによるイントロダクション
いかめしい扉を開くと殺気がムッと湧いて出た。分厚い氷に埋もれた要塞の最深部。太陽の光はもちろんミリ波すら届かぬ世界に酷く冷たい熱意が渦巻いている。コートの襟をそばだてると場違いな服装の女が出てきた。いや、そもそも人間なのだろうか。蝶の羽を背負って肌もあらわな格好をしている。
差し伸べられた手を握るわけにはいかない。
「何だね君は。まずそのふざけた扮装を解いてもらおうか。挨拶はそれからだ」
初対面の相手に説教するのはなかなか勇気が要る。すると彼女は申し訳ございません、と頭を下げ、コートを羽織った。
「だいたい私は娑婆に舞い戻ったばかりなのだ。いくら講義を受けているとはいえ、見ると聞くとでは大違いだよ。もう一度、死にたいぐらいだ」
忌憚なき意見を述べると彼女は涙ぐんだ。「醜い姿で不快な思いをさせて…」
その潤んだ瞳を見て私は我に返った。無礼者は自分ではないのか。専門誌の編集者として数え切れないほど人と接してきた。その経験が私を叱責している。
「すまない。エンケラドゥス休戦条約だったか…。本物の”虚構世界人”と形而下で会話するなど、平成時代生まれの私には想像を絶する出来事なのでね」
数々の非礼を詫びると彼女はかしこまった。
「わたしは軍広報部の妖精、ローレンシア上尉です。戦前に没せられた方はみなさんそうおっしゃいます。だからこそ、曇りのない眼で歴史を見ていただきたいのです、。これから多彩な
広報官がくれた資料には表題がついている。
プロジェクトローレンシア・イエローブックリポートVOL49~戦略創造軍特記事項
◇ ◇ ◇ ◇
戦略創造軍 沿革
「戦略創造軍」は国連の平和維持活動から着想を得ています。
警察軍をベースに潤沢な予算配分でチートした平和執行部隊。必要とあらば開発途上の試作兵器すら徴発し、凶悪な抵抗勢力を実力で排除し、平時には工兵部隊がインフラ基盤の整備に従事したり、兵器工廠で民需品を生産し、産軍複合体が基礎研究を行って技術水準の嵩上げに貢献する。
そんな組織をイメージしてください。
ストーリーに登場する歴史は特権者の攻撃により世界同時多発的な異変が起きた時点でわたしたちの史実から分岐します。
この世界では、特権者戦争終結後の混乱期に大量破壊兵器が蔓延し社会問題化した中で民間軍事会社が脅威の除去に努めています。
事実上の国連軍であるアメリカ軍が人類の天敵と対峙するときの国家的暴力装置としての意義やありかたを考察していきます。
剣と魔法の世界に現用兵器を持ち込む作品は売るほどありますが、魔法と現有兵器とSFをほどよく混ぜた設定は無いだろうと思い
特権者戦後の世界自体が社会構造や世界情勢などあまり掘り下げた設定を作っていませんでした。
そのため、内容は歴史的経緯や二十一世紀の兵器体系をベースに魔法とサイエンスと多少のフィクションで創作しています。
ミリタリーマニアの方からは「無いわ!」と野次が飛ぶかもしれませんが、そこはお遊びということでご容赦ください。
戦略創造軍とは陸海空の三軍に加えサイバー空間を主戦場とする情報軍と工兵部隊を発展させた生産ないし経済活動全般を担う経済軍を加え(情報経済軍)、戦略的かつ強制力を伴う戦術的な平和創出を行う武装組織である。
第二次国際連合ソマリア活動をモデルケースとして設立が検討され、人道支援はもとより、警察活動、武装勢力の強制排除、部族間対立への積極的介入、テロ犯罪組織に対する軍事攻撃から社会基盤の建設、軍需品ないし民生品の生産までを担っている。
設置の根拠法は国際連合憲章第七条に基づく。
略年譜
昭和74年(1999年)7月26日 特権者戦争勃発
9月11日 アメリカ同時多発確率変動テロ。マンハッタン島水没
9月15日 対テロ戦争・不朽の自由作戦発動(2760年現在続行中)
修文元年(2004年)5月11日
同年6月1日 冥界侵攻開始~三途の川渡河、永劫回帰惑星プリリム・モビーレ降下作戦、彼岸上陸作戦「サラメーヤの鳩」発動
6月7日 4:09 開闢爆弾投下 閻魔宮炎上
6月9日 13:13 開闢爆弾投下 冥府崩壊
7月3日 主神殲滅作戦~創造主(特権者)逮捕、即日処刑
7月4日 特権者戦争終結 死者復活宣言
9月末 白夜大陸条約調印
国連大量兵器撲滅委員会(UNMOVIC)発足、白夜大陸査察条約機構(WCCS)設立(加盟国二百か国)
WCCS傘下の実働部隊として戦略創造軍を創設
参考資料
wikipedia「第二次国際連合ソマリア活動」の項目より一部引用~~
ソマリア内戦の収拾にあたっては、1992年4月にUNOSOM Iが設立され、7月より現地で活動を行なっていた。しかし、UNOSOM Iはソマリア各勢力の協力を得られず、治安状況も劣悪であったため、人道支援活動も含め十分な成果を挙げることができなかった。1992年12月3日に国際連合安全保障理事会決議794が採択され、国際連合憲章第7章に基づき加盟国に対し人道支援を可能とする安全な環境構築のため、必要なあらゆる措置の実施権限の付与がなされた。これにより、アメリカ軍を主力とする多国籍軍・統合任務部隊(en:Unified Task Force,UNITAF)が編成されている。UNITAFは12月9日より現地で作戦を開始し、その防護下で人道支援活動が行なわれた。
国連事務総長は、1993年3月に安保理へ報告書を提出し、UNITAFの国連指揮下への移管、これに伴うUNOSOM Iへの強制力付与を求めた。強制力を用いて、平和創出活動を行なう構想である。これを受けて、安保理は1993年3月26日に安保理決議814を採択した。決議では国際連合憲章第7章に基づき、停戦監視や武装解除、人道支援活動の実施のみならず、ソマリアにおける警察機構をはじめとする統治機構の再建支援、再定住支援や市民社会の再構築などの実施も求めた。UNOSOM Iを拡大改編し、第二次国際連合ソマリア活動(UNOSOM II)が設立された。UNITAFの指揮も、UNOSOM II下に置かれる予定であった。
UNOSOM IIの規模は兵員約28,000名(うち後方支援要員8,000名)などであった。UNITAFは5月4日にUNOSOM II下に移管された。アメリカ軍は一部を除き、UNOSOM IIに参加しなかったが、支援協力を行なう体制にあった。
~~引用終了
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