魔王の対処に困った王国はコールセンターを召喚
水原麻以
●王都炎上
おお勇者よ死ぬとは何事だ。いや情けないのは国王だろう。魔王軍は宮廷を焼いている。近衛師団は既に刀折れ矢尽き壊滅状態。お抱え占い師が防御呪文で時間を稼ぐ始末。
「どうあがいたって撃退するのは無理だと思いま…」
タロット術者が息絶えた。魔力を使い果たしたらしい。
「閣下、ご決断を!」
家臣が血相を変えて乗り込んできた。翼竜が屋根をついばんでいる。抜け穴はゴブリンとトロールの歩兵に塞がれた。このような軍勢を華麗に蹴散らすべくレベル∞の勇者を雇った。だが彼は法外な報酬を酒池肉林に費やしたあげく脳梗塞で倒れた。
「ぐぬぬ…なぜ予知できなかった」
王は生き残った占術師集団を見回した。そして無言の衆をなじる。パラパラと天板が剥がれる。宮殿は1分も持つまい。幸い王には切り札があった。玉座の裏に密使や替え玉が出入りする召喚門がある。英霊の森には強力な聖神がおり魔王でも篭絡できない。施術者を選抜し転移の準備をさせる。同時に王宮の扉が突破された。
「せめて余の盾となれい」
やおら剣を抜くと家臣の列越しに前衛のオークどもを威嚇する。
「お待ちください」
占い師の一人が進言した。召喚門に異常を感知したというのだ。
「どういう事だ?」
「残念ながら邪の魔力が注入されておりまする。敵の挟撃かと」
手のひらの水晶玉がどす黒い。
「なんと!万策尽きたか」
王は宙を仰いだ。そして眼光をきらめかせた。
「そうだ!敵はゲートの途中におるのだな?」
「はい。毒々しい濁流が注がれております」、と占師。
「ならば目には目を歯には歯をだ。こちらもありったけの魔力を投入せい!」
「そんなことをすればゲートが壊れます。どころか王都が粉みじんに…」
側近たちがざわめく。
「構うのもか!魔王に渡すぐらいなら臣民と共に散ろうではないか」
檄を飛ばすが聴くものはいない。どころか衛兵が制止しにかかった。
「王様がご乱心あそばれた」
十重二十重にのしかかる兵士達。もまれながら王は決死の呪文を唱えた。
「か、
とっさに占い師たちが無効化を試みる。しかし玉座が白熱した。
強烈な奔流は召喚門を打ち破り王宮を火球に変えた。
【パコラ王国に栄光あれぇええ!】
正邪混然一体となって断末魔の叫びを飲み込んでいく。
王都歴117年。パコラ王国と隣国サタニックを含む辺境領は地図から消えた。
●旧世界持続化給付金
激しい縦揺れを軸に部屋が旋回すると月日も一気に巡っていた。何しろ朝九時に出勤して定時に会社のエントランスで翼竜に出くわした。街並みはすっかり退化しておりすべて石造り。スマホの日付は西暦1970年だ。
ありえない。それから甲冑やら如何にもなローブ姿の老婆が事務所に出入りしてサーバー室や会議室に勝手な変更を加えたたあげく夜半に全員が金縛りから
解放された。
「しかし何故にコールセンター?」
オペレーターの山吹翠が電話線をくるくる弄ぶ。
「釈明しよう!」
マギが呪文を唱えた。窓のカーテンが切って降ろされた。
古来より辺境領にパコラ王国とサタニック魔国の二大勢力あり。王都歴117年。落ち延びようとするパコラ王の転移ゲートに魔王はパワーを注いで妨害した。しかし敵もさるもの。王は魔王を道連れに自爆を図った。かくて辺境領は消失したが転移パワーの暴走は時空の摂理を乱した。結果、日本という異世界にゲートが生じレーキ帝の治世に扉が現れた。
「生活補償とな?」
密偵の報告は寝耳に水だった。だが辺境領消滅を教訓として軍事より経済を優先し賢帝と呼ばれるレーキは善処を図った。日本という国は有事に弱いが経済に強い。おまけに異界の科学技術は願ってもない僥倖だ。
「よかろう。丁重に扱え。衣食住もくれてやれ」
「正気ですか?恵んでやれと仰る」
「彼奴等は金の生る木だ。丁重に扱え」
大臣とやり取りのあと帝国は日本人を難民救済する政策決定をした。
「と、いうわけで閣下、圧倒的にマンパワーが足りません」
センター長に昇格した山吹は窮状を訴えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます