第12章 さくらへの誓い 【3】
515号室に入った俺は、もう一度既視感に襲われた。
……やっぱり、あの時のだ……
あの時はそうとは思わなかったが、あれは俺が無意識的に「さくらが死なずに済んだ世界」を望んでいたことで、一瞬とは言えその世界に足を踏み入れられたのだろうか?
「さくら」抑えた声で俺は呼びかけた。
「聞こえてるか? 俺だ。
俺は目隠しに引かれているカーテンの後ろに回り込んだ。
そこで俺はまたしても既視感に襲われた。さくらがあの時の白昼夢と全く同じ包帯やガーゼの当てられ方をされていたのだ。とは言え、やはり思ったより管だらけになっていないことは不幸中の幸いだったことを物語っているのだろう。
「……さくら……」俺は彼女の顔のガーゼに覆われていない部分に触れた。俺の手には、いつもと変わらない優しい手触りと温かい体温が伝わってきた。
「……さくら」なぜか声が詰まった。「……お前が無事でいてくれて嬉しい……」
無意識に伸ばしていた手が見えていたさくらの髪に触れた。脂じみたペタッとした手触りがしたものの、それも彼女が生きているという証明だった。
「……さくら、俺、大春先生と『5分だけ』って約束してるんだ。だから、長居できなくてごめん。……でも、ちょくちょく来るからな」
返事が来ないことは分かっていたが、俺は短期滞在を詫びた。
「さくら」俺は確かめるようにもう一度さくらの肌に触れた。
……この温もりを失ってはならない……
「さくら、俺、お前がこの先も笑って暮らせるようにするから。だから、もう一度俺の顔見て笑ってくれよ? じゃないと、俺、生きていけないからな」
俺は自身の身体に染み込ませるつもりでさくらの体温を感じようとした。
「……さくら、そろそろ時間だから、俺、帰るわ。でも、また来るからな。だから、今度は目覚めていてくれよ? 俺に何の断りもなくどっか行くとか、そんなんはなしだからな?」
さくら本人は知る由もないだろうが、俺の中では数日前の「最悪の白昼夢」はまだ生々しく記憶に残っていた。
「さくら、早く元気になれよ。今度また『
子どもではないので、好きなマンガの名前を出したところで元気になるとは考えていなかった。しかし、俺の中では、既に次のデートの行き先に決まってはいたのだ。
「じゃあな、さくら。また来るからな」俺は名残りを惜しむようにもう一度さくらの顔に触れた。
……よし……
俺は
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