おんりょうめもりー ~死人達の記憶と刀の少女~

柴田 兼光

0-0-0.序

 音を立ててマキナの創り出した空間が崩れていく。


「影姫! 何をしているのですか! 早く脱出を!」

「おい! このままだと戻れなくなるぞ!」


 足を止める私に対して、仲間達の呼ぶ声が聞こえる。

 だが、私の中には一つの疑問が浮かび上がっていた。

 頭に蘇ってきた翁が私に言い残した記憶。


〝厄災ノ人造神は役目を終えた時、その身体は光の粒子となり崩れ去ると伝えられている〟


 だが、目の前にいる厄災ノ人造神マキナの姿は違った。

 足元から薄っすらと陽炎の様に消えていくのだ。


 これ以上ここに留まれば、元の世界に戻れる保障はない。

 仲間達には皆それぞれ帰りを待つ者がいる。今戻れば我々が暮らしていく時代くらいは平和に過ごせるだろう。

 しかし、私には一人もいない。父も母も弟も、故郷である街ももう存在しない。先の未来を考えるならば、ここでコイツを仕留める必要がある。

 殺るなら私しかいない。


 足場も崩れていく。このまま迷っていればマキナに最後の一撃を加えることすら出来なくなる。

 決断するしかない。


〝フフフ、勘のいい娘もいるのね。嫌いではないけど、目障りよ〟


 頭の中に突然声が響いてきた。マキナの声だ。

 その声が聞こえてきたと同時に、足場が急激に速度を速めて崩れていく。

 やはり翁の言っていた事は正しかったと言う事か。


「影姫っ!」


 少し振り向くとイミナとリーゼロッテの顔が見えた。

 すまない、イミナ、リーゼロッテ。貴方達には生きる理由を与えられ感謝している。

 他の仲間達にもまた感謝している。

 だが……!


 再びマキナのほうへ向き直るが、もう足場が殆ど崩れ去り無くなっていた。

 迷いでチャンスを逃してしまったか。


〝もう遅い。我は過去に遡り、再び未来を作りかえる。貴様等のように我に刃向かう様な存在が出現せぬようにな!〟


 くそっ。もう、手立ては無いのか……。

 と、その時だった。後方から爆音を伴う機械音と共に一つの影が飛び出してきた。


 仲間の一人である機械兵器、ボロだ。


「影姫、イキマショウ。アナタ一人クライナラ乗セテ飛ベル」


「しかし、お前にも……」


「私モマタ、知ッテイマス。過去カラ繰リ返シ残サレタ、膨大ナ厄災ト屍霊ニ関スルでーた。私ガ鉄くずニナロウトモ、貴女ガ今シヨウトシテイル事、必要デス」


 崩れ去る空間の音で、もう他の仲間達の声は聞こえてこなくなった。

 その後、私はボロの背に乗り厄災ノ人造神に特攻をかけた。

 右手に神刀・スサノオロチ、左手に毒刀・鬼蜘蛛を握り締めて。


 それを阻止すべく、飛行する私達にマキナの魔力弾が降り注ぐ。

 辛うじてかわしてはいるが、少しずつ被弾し崩れていくボロの体。


「ボロっ! もう少しだ、踏ん張ってくれ!」


「……ああ、ここで踏ん張らないでいつ踏ん張るってんだよ」


 ボロから聞こえてきたのはいつもとは違う知らない声だった。だが、その声にはなぜか懐かしさを感じた。


「皆コイツに殺されたんだ! それなりの落とし前、つけてもらわないとなっ!」


 その言葉に、一人の名前が浮かんだ。だが、知らない名前だ。


「タクマ、後は任せろ……! 必ず……!」


 煙を吐き崩れ行く機械の身体を足蹴に、飛び跳ねマキナへと刃を向ける。


 噴水の様に溢れ出る血液が降りかかる。そして耳を突き刺すマキナの叫び声。

 私の両刀は、確実にマキナの心臓を突き刺した。


〝フ、ハハハッ。おもしろいよ! そうだよね、敵がいないと面白くないよね! いいよ、お前も道連れにして連れて行ってやるよ! 後悔するといい、何も知らずに消えれなかったという事をッ! 真なる紅き石の呪いをその身に受けるという事をッ!〟


 その後の記憶はない。

 その前の記憶もない。


 私に残された記憶は、厄災を滅せよというものだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る