強い立場
恋をすることは苦しむことだ。
苦しみたくないなら、恋をしてはいけない。
でもそうすると、恋をしていないことでまた苦しむことになる。
ウディ・アレン
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妻が亡くなって数年が経つ。しかし、外見的には妻は亡くなっていない。妻と瓜二つのミリアムと暮らしているからだ。
妻の葬式に諸々で5百万。その後にミリアムの購入で2千万円。これが妻を忘れられない哀れな男が浪費した額だ。
「今日もお疲れ様。ご飯はできてるよ。」
ミリアムは帰宅するなりそう出迎えてくれた。
「ありがとう。先に風呂に入ってから食べるよ。」
俺はいつもそう返している。逃げるように風呂場へと入り、温まっている浴槽の水を頭に被す。
気を取り直して、ミリアムと向かい合って食事をとった。ミリアムには食事はいらない。しかし、人間を模す目的で造られたそれは自分で作った料理を口に運び、
「今日の味は濃かったかな。」
と、聞いてくる。
「そんな事はないよ。疲れているし、これぐらいが丁度良いかな。」
そう答えてやったが、それは何処か不満そうな顔をする。これがミリアム型の特性だとはわかってはいるのだが、癪にさわる。
「お酒でもつごうか?まだ、冷蔵庫にビールもあるし。」
「別にいいよ。それより、この魚の煮付けはいつもとは味が違うね。何か変えた?」
「わかる!?出汁をね、ちょっと良いのに変えたの。近所の沢渡さんに聞いて試してみたのよ。」
止めてくれ。まるで拷問だ。
「ごめん。口に合わなかった?」
「そんな事はないよ。美味しい。」
「ほんとう?」
「本当に美味しい。」
俺はそれと他愛のない会話を続ける。終わる事の無い悪夢のお陰で、今もまだ彼女を忘れられずにいられるのだ。
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