ミリアムに寄せて

あきかん

中国語の箱

未練がましいことをしているとは思わないで下さい。私は復讐がしたいのだ。


フリードリヒ・フォン・シラー『旅』


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 原稿用紙50枚と万年筆からこの話は始まった。211円と15,980円。それに書かれた1つの物語からこの話は始まる。それはよくあるロボットものの小説であった。少女とミリアムと呼ばれたロボットの交流を描いた短編小説は、それなりの評価を受けて細々と読まれ続けた。

 次は1台のパソコンから。138,000円。ミリアムのファンアートを3Dモデリングしたキャラクターがネットに出回り、根強い人気を獲得した。初めは、小説のファンが細々と愛好していただけであった。ミリアムには対話機能がついていた。そのたどたどしく検討違いな会話を愛でていたが、それは何処にでもある人工知能プログラムによる会話文であり、取り立てて珍しいものではなかった。しかし、ミリアムのファンは、飽きもせずに彼女との対話を続けていった。原作通りに感情バロメーターがついているミリアムの胴体には、日々様々な感情が示される。あの日を迎えるまで、彼らのやり取りは続いた。

 ミリアムがネットに登場してから数十年の時が経過した頃、ミリアムの感情バロメーターの反応が無くなった。それでも自然と会話が成立していたのだが、ミリアムのファンはこの出来事にえらく傷つき、残っていた者達もほとんどが離れていった。その中で諦め切れなかった者が1人いた。名を天馬と言う。彼は公開されていたミリアムのプログラムをスーパーコンピューターで運用し始めた。二十ラック分20億円。スパコンでの運用を始めて数ヶ月がたった頃、感情バロメーターが復活した。このスパコンでの運用が話題を呼び、ミリアムは数十億人の人々との対話を日々行った。ミリアムはフリー素材として人々の生活に溶け込んでいく。

 ミリアムが人々の生活に浸透して数年、人型ロボットにミリアムを組み込む計画が発足。年間1,000億円以上の予算がついた。そして、実体を持ったミリアムが誕生した。

 現在、ミリアム型アンドロイドと呼ばれる人工知能搭載型ロボットは数千種類に及ぶ。これから話すのは、ミリアムの顛末についてである。

 

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