第80話 旅立ち前夜

 その日の夜、宿屋の客室にて――


「ブラックストレージ」


 ティオが手を前に出し、スキルを発動する。

 真っ黒な霧が広がり、その中から侍装束のスケルトン――サヤが現れた。


「呼び出されるのを待っていたぞ、ティオ殿」


 その場で片膝をつき、ティオに頭を垂れるサヤ。

 彼の行動に戸惑いつつも、ティオは口を開く。


「サヤ、まずは頭を上げてほしい。そしていくつか質問があるんだ」

「質問か、転生前のあなた様との約束により答えられないこともあるが、それ以外であれば喜んで答えよう」


 流れるような動作で立ち上がりながらティオの言葉に答えるサヤ。

 そんな彼に頷きながら、ティオは質問を始める。

 アイリスたちも彼の後ろでやり取りを見守っている。


「まず一個目の質問なんだけど、ぼくたちはこれから三獣魔を討伐する旅に出る予定なんだ、その際にサヤたちの力を借りることはできるかな?」

「無論だ。迷宮でも言った通り、我らはティオ殿の剣であり盾となる存在だ。それにしても三獣魔か、クックッ……面白いことになっているな」


 ティオの質問に答えながらクツクツと笑うサヤ。

 骨だから表情こそわからないものの、その笑い声からは好戦的な雰囲気を感じる。


「(三獣魔の復活を聞いて驚くどころか楽しそうにするなんて……)」

「(あのサヤというスケルトン、何となく感じていたけどトンデモない強さを有していそうね……)」


 ティオとサヤのやり取りを見て、アイリスとベルゼビュート小声でそんな言葉を交わす。


「ありがとう、サヤ。心強いよ」

「ああ、いくらでも頼ってくれ。さてティオ殿、次の質問は?」

「サヤ、さっきの移動兵器、魔導列車インペリアルだっけ? アレはすぐに使うことができるの?」

「もちろんだ。いつでも走れるように万全の整備を施してあるぞ。動力に特殊な仕掛けをしてあるので半永久的に動くことが可能だ」

「それは……すごいな。よし、それなら明日食料とかを買い込んで、さっそくインペリアルに乗って旅立つことにしよう」


 せっかく手に入れた移動手段だ。使わない手はない。

 さすがに巨大機関車が空を飛んでは各地で大騒ぎになってしまうと思うので、港でインペリアルを呼び出し海の上を走行することになるだろう。

 それでも悪目立ちはするだろうが、ティオが所有するアーティファクトだと言えば、この都市の人々は納得してくれるであろう……多分。


「あの乗り物で旅するの!?」

「楽しそうです〜!」


 ティオたちの会話を聞いていたリリスとフェリスがはしゃぎだす。

 よっぽどインペリアルの中が気に入ったのであろう。


「サヤ、最後にもう一つだけ質問があるのだけど」

「なんだ、ティオ殿?」

「サヤの配下たちのアンデッドには上位アンデッドが含まれて……というか、半数以上が上位アンデッドだった。それらを率いている君はいったいどれだけの戦闘力を有しているの?」


 そう言って、アイリスやベルゼビュートたちが気になっていた疑問を、ティオは投げかけた。

 それに対し、サヤは――


「……ふむ、力というのは相性などもある故に説明しづらいが……そうだな、数千年前に七大魔王の一柱を討滅したことはあるぞ」


 と、答える。


「「「…………は?」」」


 ポカンとした様子で声を漏らすティオたち。


 サヤ……彼は今何を言った?

 単独で、七大魔王の一柱を討滅した?

 三獣魔のさらにその上、七大魔王の一柱を……だと?


 誰もそんな疑問を顔に浮かべている。


「とはいえ、それも我が全盛期の時の話であり、七大魔王の中でも一番戦闘力の低い存在であったりと、いろいろと条件が重なったのだがな」


 ティオたちの反応を見て、苦笑するかのようにクツクツと声を漏らすサヤ。


 その反応を見てティオたちは(((マジなんだ……)))と、サヤが本当のことを言っていること、そして彼の強さにもはやドン引きするのであった。

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