第60話 公爵家の城へ
夜――
「よし、準備はできたかな」
服装の襟元を整えながら、ティオが皆に問いかける。
ドレスに着替え終わったアイリスたちが、それぞれ返事をする。
ナツイロ公爵はティオの返事を聞くと、あとで改めて迎えを寄越すと言って部屋を去っていった。
準備もあることだろうと、ティオたちを気遣ってくれたようだ。
その間にティオたちは着替えなどの準備を済ませたわけである。
「わ〜い!」
「ヒラヒラで可愛いです〜!」
初めてドレスを着たリリスとフェリスが、嬉しそうな表情を浮かべてはしゃいでいる。
さすがは観光地、高級服飾店に行くと妖精用のドレスも用意されていた。
服飾に関する生活魔法スキルを使うことで、皆のサイズに合うようにすぐさま調整をしてくれた。
「ティオ様、いかがでしょうか?」
「似合っているかしら?」
少しばかり扇情的なドレスを着たアイリスとベルゼビュートが、ティオに感想を求めてくる。
アイリスは白を基調とした優しい印象のドレスで、ベルゼビュートは黒を基調としたよりセクシーなものを着ている。
「二人とも、その……とっても似合っていると思う」
普段よりもさらにおめかしした二人を見て、ティオは少し恥ずかしそうに……それでいて素直に感想を伝える。
「ふふっ、気に入っていただけて何よりです」
「マスターの使い魔として嬉しいわ」
ティオの言葉に、少々頬を染めながら嬉しそうな表情を浮かべるアイリスとベルゼビュート。
「ねぇねぇ〜!」
「私たちも似合ってますか〜?」
ティオのもとに近づき、自分たちも褒めて褒めてと瞳で訴えてくるリリスとフェリス。
「ああ、二人ともとっても可愛いよ」
「わ〜い!」
「ティオさんに褒められたのです〜!」
ティオの言葉に、リリスとフェリスはその場でぴょんぴょん飛び回り、喜びを露わにするのであった。
そんなタイミングで、部屋のドアからノック音が聞こえてくる。
公爵家の使いの者が迎えに来たと、宿屋の従業員に伝えられる。
「よし、それじゃあ行くとしよう」
少し緊張した面持ちで、皆を連れて部屋を出るティオ。
エントランスを降りて外を見ると、公爵家の家紋が入った豪奢な仕様の馬車が一台止まっているのが確認できる。
「お迎えにあがりました。ティオ様、そしてお連れの方々、どうぞご乗車ください」
上質なスーツに身を包んだ御者の男が、朗らかな笑顔でティオたちを迎える。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
迎えに来てくれたことへの感謝を伝えると、ティオは馬車に乗り込む。
それに続くアイリスたち。
リリスとフェリスに関しては、「綺麗な馬車ね〜!」「とっても立派です〜!」と、またもやはしゃいでいる。
馬車に揺られることしばらく、ティオたちは白塗りの綺麗な城の前にたどり着いた。
「うわぁ〜!」
「お城なんて初めて見たのです〜!」
城を見上げながら、瞳をキラキラさせるリリスとフェリス。
城だけでなく庭も立派なものだ。
大きな噴水と南国特有の植物が綺麗に調和している。
腕のいい庭師が、絶えず手入れをしているのが窺える。
庭の中を歩くこと少し、いよいよ城の門の前にたどり着くティオたち。
使用人たちがティオに一礼すると、城の門が開かれる。
(うわっ、すごい光景だ……)
心の中でそんな感想を抱くティオ。
開かれた門の先には豪奢なエントランス、通路にはメイドたちがずらりと並んでいる。
「よくぞ来てくれたな、ティオとその仲間たちよ」
そんな言葉とともに、奥からナツイロ公爵が現れる。
その後ろに、二人の女性を連れている。
「またお会いしましたね、ティオ殿」
そう言って、一人の少女が美しい笑みを浮かべる。
(あ、公爵家ってことは彼女もいるんだったな……)
そんな感想を思い浮かべながら、挨拶を返すティオ。
公爵の後ろに立っている二人の女性、そのうちの一人は武闘大会の準決勝で戦った相手――ダリアだった。
公爵家のご令嬢なのだから、この場にいて当然である。
「あらあら、武闘大会の優勝者と聞いていたからもっと怖い見た目をしていると思ったのに、なかなか可愛らしいお方ですわね」
ダリアの隣に立つ女性が、上品な笑みを浮かべながらティオに話しかけてくる。
見た目からして、ダリアの姉……といったところだろうか。
そんなような想像をするティオだが――
「紹介しよう、妻のイライザだ」
公爵がそんな言葉を口にする。
(あ、奥様だったのですね)
(人間族なのに大した見た目の若さね)
ナツイロ公爵の奥方にしては若すぎる見た目をしているイライザ夫人に、アイリスとベルゼビュートはそんな感想を抱く。
「わ〜! キレイな人たちね!」
「とってもキレイなのです〜!」
ダリアとイライザを見て、リリスとフェリスがはしゃぎ出す。
「よ、妖精さんたちにそんな風に褒められると……」
「なんだか照れてしまいますわね」
リリスとフェリスの反応に、ダリアとイライザ夫人は照れた様子、それでいて嬉しげな表情を浮かべるのであった。
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