第49話 グルメを満喫

 マーケットを楽しみ、一時間後――


「あら、いい宿屋じゃない」


 宿屋の部屋に入ったところで、ベルゼビュートが嬉しそうに感想を漏らす。


 まぁ、それも当然であろう。

 せっかくのバカンスということで、ファミリー用のスイートルームを取ったのだから。


 リリスとフェリスは「「わ〜い!」」と声を上げ、寝室の大きなベッドの上で跳ねている。


 部屋が立派なのはもちろんだが、大きなテラスも用意されており、そこからこの島の海が一望できるロケーションだ。


「綺麗ですね……」


 テラスに出たティオの横に並び、アイリスが思わず声を漏らす。


 透明度の高い青の海は、日差しに照らされまるでサファイアのように輝いている。

 ティオの反対隣にベルゼビュートもやってきて、うっとりと海を眺めながらティオにしなだれかかる。


「あ〜!」


「ずるいのです〜!」


 ティオがドギマギしていると、リリスとフェリスが部屋から駆けてくる。

 リリスはティオの頭の上に座り、フェリスは彼の背中によじ登る。


(子どもがいたらこんな感じなのかな……)


 甘えてくる二人に苦笑しながら、ティオはそんな風に思うのだった。


 ◆


 さらに一時間後――


「うわ、混んでるな……」


 とある飲食店の中を覗き込みながら、ティオが苦い表情を浮かべる。


 時刻は昼時、せっかくなので美味しいものを食べようと、宿屋でおすすめのレストランを聞いてやってきたのだが……やはり人気店なのかなかなかに混んでいた。


「一応、席が空いているか聞いてみよう」


 そう言いながら、レストランへと入るティオたち。


 受付の女性がティオたちの姿を見つけると「すみません、今日は予約でいっぱいでして……」と申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「あー、やっぱりそうですよね……」


「仕方ありません、他の店にいきましょう」


 案の定な受付嬢の案内に、ティオとアイリスがそんなやり取りを交わした……その時だった。


 受付嬢の瞳が大きく見開かれる。

 その視線は、ティオとアイリスの首から下がる、冒険者タグに固定されている。


「お客様、少々お待ちいただけますでしょうか……?」


 そう言って、受付嬢は奥へと下がっていった。


「「「……?」」」


 不思議そうな表情を浮かべるティオたち。

 少しすると、受付嬢は満面の笑みを浮かべて戻ってきた。


「空きの席ができましたので、どうぞご案内いたします。Aランク冒険者パーティの皆さま♪」


 そう言って、ティオたちを奥へと案内し始める。


(あー……)


(そういうことですか……)


(ずいぶんとゲンキンね……)


 状況を理解するティオ、アイリス、ベルゼビュート。


 恐らく、Aランク冒険者……それも妖精であるリリスとフェリスを連れているようなティオたちを上客になると、店側が見込んだのだろう。


 そんな思惑も知らず、リリスとフェリスは「「わ〜い!」」と言いながら、素直に案内される。


(まぁ、美味しい料理が食べられるならいいかな……?)


 そんなことを考えながら、ティオたちも案内されるのだった。


 ◆


「あ、このステーキ美味しいですね」


「ほんとですね、ティオ様!」


「ワニのお肉ってこんなに美味しいのね……」


 運ばれてきた料理を口にし、そんなやり取りを交わすティオ、アイリス、ベルゼビュート。


 今、彼らが口にしているのは、ベルゼビュートの言ったとおりワニの肉だ。

 この島のジャングル地帯にはワニが多く生息しており、その肉は豊潤な味わいで、人気があると料理を運んでくる際にウェイターが言っていた。


「こっちも美味しいわ!」


「オムライス最高なのです〜!」


 はしゃいだ様子で料理を食べるリリスとフェリス。


 彼女たちには、子どもの舌に合うように、特別にワニの肉を使ったオムライスを用意してもらったのだ。


 ティオたちはステーキを食べながらこの島の果実をふんだんに使ったフルーツカクテルを、リリスたちはオムライスを食べながらフルーツジュースを堪能する。


 そして最後に、これまたこの島の果物とクリームをたっぷりと使ったケーキがデザートにやってきた。


 甘いものが大好きなリリスとフェリスはもちろん、ティオたち三人も甘美な味わいに思わず表情を綻ばせる。


 さすが、あれだけレベルの高い宿屋が、自信を持っておすすめするだけのことはあるといったところだ。


「そういえば……この国はチップを渡すんだったっけ」


 クラリスを経つ前に、マリサ伯爵から教えてもらった情報を思い出し、テーブルの上に多めのチップを用意するティオ。

 下心があったとはいえ、せっかく席の融通を利かせてくれたのだから、これくらいはいいだろう……。


 満腹・満足で店を出るティオたち。


 店を振り返ると、チップを受け取ったウェイトレスが窓の向こうから熱烈な投げキッスをティオたちに飛ばしているのが見えた。


「さて、次はどうしましょうか?」


「ティオ様、せっかくなのでこのまま水着を買いに行きましょう!」


「うふふっ、マスターがドキドキしちゃうような素敵な水着が欲しいわね」


 ティオの問いかけに、笑みを浮かべながら答えるアイリスとベルゼビュート。


 リリスとフェリスも「わーい!」「海で泳ぐの楽しみですー!」と興奮した声を上げる。


 楽しみでしょうがないといった様子の女性陣に苦笑するティオ。


 海と水着に胸を高鳴らせながら、一行はショッピングへと向かう。

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